/00/

その日は、疲れていたのでようやく眠れる、と思うと思わずベッドにダイブしてそのままの姿勢で寝てしまった。なのに意識がはっきりしている。辺りは目を閉じてるからなのか一面の闇。ふ、と目を開ければ其処に居たのは国会議事堂の下の夢を見続けなければならない宿命を背負った女性、丁さんだった。国会議事堂で何度か逢った事があったけれど夢で逢うのは初めてだった。突然呼び出したりして申し訳ありません、と丁さんは丁寧に謝罪をしてきたけれども、あたしはなんとも思って居なかったのですぐに丁さんに顔をあげてくださいと丁さんの側に駆け寄った。あたしの目の前に居た丁さんは、着物の裾をひらひらとなびかせて、悲しそうに視線を下に落とした。

目線の先に現れた丸い、青いほし。地球。夢の中で浮かんでいる地球はあまりにも綺麗で、言葉が出ないほどだった。
これが、あたしたちが守ろうとしているものなのだと思うと、鳥肌が立った。「本当は」と申し訳なさそうに丁さんは口を開きはじめ、

「本当はまだこのことを言うのは先の話だと思っておりました。」

「貴女はわらわが知る未来には存在していない・・・つまり、貴女の存在があれば、世界は崩壊を免れるかもしれないのです。」

「だから、どうかもう一人のわらわに惑わされないで。」

青く美しい星に目線を落としていた丁さんはあたしの方に目線を向けると、切実そうに顔を歪めてあたしの腕を女性らしい細い腕で強く掴んだ。 もう一人の丁さん?口に出さずとも此処は丁さんの夢の中なので丁さんには聞こえているらしく、頭を縦に振った。しばらく俯いていて黙り込んでいた丁さんはあたしの腕を掴んでいる力を強くして、「天の龍を滅ぼそうとする、もう一人のわらわ・・・貴女に何を仕出かすかわからないのです。」とか細い声で言った。
言葉を話し、見て、動くことが出来る丁さんは国会議事堂の下で逢う時より儚かった。「そして、わらわを止めて・・・」そう聞こえた刹那頭上からもう一つ声が聞こえた。上を向けば其処にいたのは、丁さんそっくりな女性だった。
しかし今あたしの側に居る丁さんとは違い、笑みは妖艶で何を考えているかわからない、別人のようだった。

どうして、と驚きを隠せないあたしの側に居る丁さんはぎゅ、とあたしの腕を掴んでいた力を強くした。それを見た頭上に居る女性はくすりと笑うと丁さんに向かって手のひらをかざし、その身体を吹き飛ばした。ひのとさん、と声を出そうとすると頭上に居た・・・もう一人の丁さんだと思われる女性があたしの目の前にふわりと降りて来くると、顎に指を絡ませ口元だけを歪ませて笑った。

「お前さえ居なければ、夢の通りに天の龍は滅びる。」

その言葉を合図にするかのようにあたしの周りには見たことのない魔法陣があたしを囲むように現れた。それを見て止めにかかろうと走り出そうとする丁さんを、目の前に居る丁さんは優雅に、かつ妖艶に丁さんの方を見て微笑むだけだった。 走り出そうとする丁さんを見て「遅い。」と目の前のもう一人の丁さんが言うとあたしの周りに浮かび上がった魔法陣が光り始める。まぶしい、目を開けていられないほどの光にあたしは眉をひそめて目を閉じる。
最後に聞こえたのは「この世界から居なくなれば、わらわの願いも叶う。」という目の前の丁さんの声で、其処から先は魔法陣のまぶしさと、激しい耳鳴りと地鳴りを鳴らしながら押し寄せてくる圧力を感じ、それらに耐え切れることが出来ずにあたしの意識を手放した。

ガバッと勢いよく起きると布団の上。時計に目をやるともう2,3時間もすれば日が昇るような時刻だった。窓の外には夜中と思われる時間帯なのにまだ光っているネオンライトがカーテン越しにぼんやりと見える。いやな汗が背中をつう、と伝い寒気がした。
横ではモコナが敷布団から落ちて畳の上に大の字になりながら寝ている。
浅くなっている呼吸をゆっくりと落ち着かせてから、もう一度布団を被り直す。

余計な事を思い出してしまった。今、
世界はどうなっているのだろう。


/01/

侑子さんの居た東京以外で初めて降り立った『別の世界』はあたしが居た日本に少し・・・随分と似ていた。
あたしが居た世界や、侑子さんの世界の大阪の様なところだった。思えば侑子さんの居た世界に飛ばされた時もどうしようもないぐらい混乱していたのを思い出した。同じ世界の様に見えるのに、世界の終末なんて縁の無い言葉だといわんばかりの平和な世界に、何度自分の居た世界も此処と同じように平和だったらよかったのにと思ったことか。

隣の布団で寝ているサクラちゃんと小狼くんを起こさないようにゆっくりと布団から出ると窓の外を見た。自分たちが居る部屋よりも随分と高いビル群にキラキラと光る照明やネオンライトをぼんやりと見つめながら考えた。

最初に出会ったひとたちの事。モコナの口から出てきたその時にはすでに目の前で待機をしていたかのように自分たちの目の前に立っていた男女二人。その顔がはっきり見えたときあたしは思わず目を見開いた。次元の魔女・侑子さんのもとを離れて最初の世界だから腹を括って行かねばこの先どうなるかわからないと思っていた矢先に出会ったその人たちは、あたしの決心を揺るがせる為には十分以上の衝撃を与えた。そらたさんと、あらしさん。「ねえちゃん、わいらを知っとるんか?」空汰さんが口を開くと聞こえた関西独特の訛りに何か錯覚が起きるのを感じた。ほんの一瞬だけ。彼の言った言葉を理解しきった時にあたしは力が抜けたようにその場に座り込み、がくりと項垂れた。目の前が真っ暗なる気がした。

前の世界で会った人が別の世界では全く違った人生を送っている。

小狼くんに告げられていた言葉があたしの頭をよぎる。なんて運命は残酷なのだろう。周りの声が聞こえないほどに動揺するあたしを、金髪の方のひとが抱き上げてくれたのを、あたしは人事のように感じていた。

、大丈夫?」いつから部屋に居たのかわからないモコナがあたしの肩にぴょん、と乗りながらあたしに聞いてくる。大丈夫だよ、とモコナの頭を撫でるもモコナにはお見通しだったらしく、「嘘。上の空だよ。」とはっきり言われてしまった。「モコナにはなんでもバレちゃうね。」「・・・じゃあ、少し聞いてもらっていいかな?」あたしがそう言うとモコナはあたしの肩から降りて窓のふちに着地するとあたしに向き合うようにちょこんと座った。
「次元を移動するんだから、同じひとが何人居てもおかしくないって腹括ってたつもりだったんだ。・・・だけど、さ」「やっぱり無理だった。違う世界で逢った初めてのひと達が、」「あたしの大好きなひと達だったから。」モコナを見つめて話しながら、どんどんと涙がこみ上げてくるのが自分でもわかった。
あたしの世界の二人は、悲しい
結末をたどるのを知っていたから、余計に。


/02/

しばらくしてサクラちゃん以外のメンバーが目を覚ましてお互いに名乗った。さっきこの世界についてすぐにあたしを抱きかかえてくれたひとはファイさん、黒髪の忍者みたいな格好のひとが黒鋼さん。そして茶髪の少年が小狼くん、女の子がサクラちゃん。・・・何度も侑子さんから聞かされていた名前。
「あ、あの、さっきはすみません・・・重かったですよね。」先ほどのこの世界に来てすぐに不覚にも自我を忘れてしまったあたしを助けてくれたファイさんにお礼を言った。するとファイさんはへにゃりと笑って全然大丈夫、軽かったしぃ、と手をひらひらとさせて答えた。「いやいや、絶対重かったです本当に、ありがとうございました。」ともう一度頭を下げてお礼を言うと、タイミングよくガチャと音を立てて扉が開いた。其処には飲み物と食べ物を持って元気そうに挨拶をする空汰さんと嵐さんが居た。どうやらこの世界の二人は夫婦のようだった。・・・有洙川夫妻、か。この世界の二人はとても幸せそうで、また涙がこみ上げてきそうになったのを堪える。

そして始まった阪神共和国の説明。かわいい手作りと思われるパペットを片手に空汰さんがホワイトボードで説明を始める。嵐さんは何も言わずただパペットを持っているだけだった。
空汰さんの関西弁、阪神共和国という名前、主食が粉モノ、ソースが名産、野球チームのマーク。
どれを選んでも自分の居た世界及び侑子さんの居た世界の大阪にそっくりで、小さい頃関西というより京都に住んでいた自分にはとても身近なものだったので、何か懐かしさを感じた。ファイさんが空汰さんに質問して、空汰さんの話し方について聞いているのを小狼くんがさらに深く質問する。阪神共和国ではあたし達の言う関西弁は古語で、今はほとんどの人が使ってないそうだ。歴史の先生をしてる空汰さんに、小狼くんは興味津々の様子で色々と聞いていた。「元居た国で発掘作業に携わっていたので。」「発掘かあ・・・結局一回も連れて行ってもらえなかったな。」CLAMP学園高等部や大学部の発掘調査に同行させてはもらえない代わりによく調査資料を親代わりをしてくれていた三人から読ませてもらっていた事を思い出してつぶやいた。「なんや、ちゃんも歴史好きなんか?」「はい。小さい頃からよくいろんな資料読ませてもらったりしてたので。」とその後しばらく小狼くんと空汰さんとで歴史の話で盛り上がった。阪神共和国は比較的あたしの居た世界の似てる歴史を持ってるみたいで、小狼くんはいろんな国に発掘に行ってたらしく、興味のある話を色々聞かせてもらえて、少し前の自分の居た世界でののんびりした時間を思い出した。自分が今こうしてる間にも自分の居た世界が滅びているかもしれないなんて考えもせずに。

次の日、小狼くん達はこの世界で羽根の手がかりを見つけるために国を探索しに行った。あたしも行こうとしたけれども、ファイさんにあっさりと特有のへにゃりとした笑顔でちゃんはお留守番ね。と言われてしまい、嵐さんとサクラちゃんの側に居ることになった。
みんなが外に居る間は嵐さんとサクラちゃんが居る部屋で家事をお手伝いしたりして居たけれども不意に嵐さんが、「ひとつ、聞いてもいいですか?」と尋ねてきた。特に拒絶することもないのでどうぞ、と洗濯物をたたみながら言う。「貴女は、別の世界の私達を知っている様ですね。」嵐さんの全てを見透かすような目があたしを捕らえた。ふう、と一息ついて「初めてこの世界に来たときは驚きました。まさか、嵐さんと空汰さんが居るなんて思っても居なかったから。」しかも、この世界の嵐さんも巫女さんだったんですね。ぴたりと洗濯物をたたむ手を止めて目線を嵐さんの方に向ける。「さんの世界の私も、巫女だったんですね。」ふと自分の世界の嵐さんが頭をよぎる。御神体を身体に秘める伊勢神宮の巫女。長い黒髪を靡かせ、漆黒の制服を纏い戦う天の龍の一人である、彼女を。そしてその未来を。

あたしからも、聞いていいですか?

目線を畳に移動させていた嵐さんがあたしの方に目を向ける。「・・・嵐さんは、今空汰さんと一緒に居て、幸せですか?」唇が乾く。うまく声が出せない。この質問をするのにどれほど緊張しているのか。しばらくの静寂が流れた後、嵐さんは「ええ。とても幸せです。」とあたしの知ってる嵐さんは滅多に見せない笑顔で答えてくれた。ああ、あたしの世界でも
幸せになって欲しかった。


/03/

阪神共和国での羽根を無事に手に入れてしばらく。次の世界の街でこの国の領主の息子と街の人々との揉め事が収まってすぐに自分より大分幼い女の子がサクラちゃんの手を引っ張って何処かに連れて行こうとするので、慌ててあたし達もそれについて行った。さっき領主が言ってた名前・・・春香、か。聞いたことあるような、ないような。
連れてこられたのはどうも春香ちゃんの家らしき建物で、春香ちゃんはしきりにサクラちゃんや小狼くんに「何か言うことはないか。」と問い詰めていた。そして「こんな子供が暗行御吏なわけないか。」春香ちゃんはがくりと項垂れた。あめんおさ・・・あめんおさ・・・ちゅにゃん・・・「ああ!」今まで黙っていたあたしが突然納得したような声を出したので、春香ちゃんはビクっと肩を揺らせて驚いた。ごめんね、と謝ると、暗行御吏について説明を続けた。そしてモコナが説明を聞いて「水戸黄門だ!」と叫んだので「あーそんな感じだよ。水戸黄門は直属の部下とかじゃなくて実際にえらいひとだけどね。」あたしがモコナに同意を示すとモコナはあたしの所に寄ってくると「物知りー!」ぴょんとあたしの膝に乗った。

昨日この世界に降りてすぐに起きていた揉め事の時で領主の息子に怪我をさせた後、春香ちゃんからこの世界の話を色々聞いていると春香ちゃんの家に領主の秘術によって起こされた竜巻のような風が襲ってきて家は半壊状態になってしまった。一泊させてもらったほんのお礼としてただいま春香ちゃんの家の屋根を修理している。主に黒鋼さんが。修理してる間に小狼くんとサクラちゃんは春香ちゃんと共に高麗国を探索しに行った。
最初のうちはファイさんも小狼くんとサクラちゃんの話をしながら板を渡していたけれども、だんだんファイさんはやる気がなくなったのか、高麗国の本を読みながら手がかりが無いかを探していたあたしにもお茶を用意してくれて、まあ座りなよ、と笑う。そんなファイさんに黒鋼さんはお前もやれよ!と屋根の上から怒鳴り、一緒にトンカチを投げてた。なんかコント見てるみたい、と思いながらあたしはため息をいて慣れないハングル文字が書いてある本にしおりをはさみ閉じると、春香ちゃんが何かあったら使ってもいいと言っていた薬草が入っている箱を取り出してファイさんの手を引いた。ごめんねーとへにゃりと笑うファイさんを見てもう一度ため息をついて座ってください、と中腰になってトンカチが当たった辺りに薬を塗った。「ありがとー」「いえ。これに懲りたら黒鋼さんを手伝ってくださいよ。」「いや、俺は黒たんを見守るからー。」ファイさんがもう一度手伝わない宣言をすると、また屋根の上から怒鳴り声が聞こえた。けれどもそれにかぶせるようにファイさんは「そういえばさ、ちゃん昨日あめんおさ?って聞いて納得してたよね。それにモコナが言ってたなんとかーって奴も。」と続けた。「・・・ああ。この世界と似たような話があたしの世界にもあったんです。自分が居た国じゃなくて隣の国ですけど。暗行御吏も本当に活躍してた歴史上の組織みたいなもので。」後水戸黄門は侑子さんの世界でもあたしの世界でも共通でありました。「此処の字も読めてるみてえだしな」いつの間にか屋根から降りてきて屋根の修理に使う材料を取りに来たついでだろうか、さっきまで怒鳴っていた黒鋼さんも話に入ってきた。「ギリギリ読める範囲ですけどね。」「小狼くんもだけどちゃんもすごいねえ。」薬を塗り終わってもファイさんは黒鋼さんを手伝う気は無かったみたいで、その後あたしは黒鋼さんに心の中で謝りながら開けたもののさっきまで読んでいた本はページが進むことなく、ファイさんの話し相手もとい茶飲み相手に
時間は費やされた。


/04/

一緒に旅を始めたのにあたしは全然役に立っていなかったので、あたしもお手伝いがしたくて今回領主の城に向かう小狼くん達について行くことにした。最初は小狼くんにも黒鋼さんにもファイさんにも駄目だって言われたけれど、何がなんでもついて行くと言うと黒鋼さんが折れてくれたおかげで行けることになった。門の秘術を無事に解くと、次に廊下の秘術も解くことが出来た。今更ながら、やっぱりあたしが一番足を引っ張ってる気がしてきた・・・みんな本当に強いひとなんだな、と足を引っ張らないようにしなければと気を引き締めた。

廊下の術を破ると其処に居たのは花魁のように髪の毛を結っていた美しい女性だった。もちろん雰囲気だけでこのひとが普通のひとではないことぐらいわかる。天蓋の中で座っていた女性がすくりと立ちあがるとその瞬間部屋は景色を変えた。幻覚かと思えば女の人が「わたしの秘術は美しいだけではないぞ。」と小狼くんに球状の何かを投げると、小狼くんの袖は煙を上げて溶けた。秘術は幻とは違い現実にあるもの、つまり此処で受けた傷はその後も残る。大量に飛んでくる水の球を避けながらタイミングを見計らって懐から何かあった時の為にと使うつもりは無かったけれど忍ばせておいた札を取り出した。短く呪文を唱え、秘術を操る女性もとい秘妖に向かって投げる。「数秒しか持たないかもしれませんが水を防げます。」あたしが叫ぶとファイさんが外灯のような先にランプがついている柱を壊してと黒鋼さんに言う。折れた柱を振り回して水を触らずに回避するのか、と思ってあたしも折れた柱のうち少し短い奴を選んで掴んだ。すると札の効果が切れ、またしても秘妖の水の球が飛んでくる。水の球を潰しながら「すみません、あんまり長い時間防げなくて。」と言うと「あの水の量だからねー。」ファイさんも水の球を潰しながら答えた。

小狼くんを先に領主の所に向かわせてからどれぐらい経っただろう。水の球は弾けて雨のように降り注ぐ。その間にも身体や服は焼けて溶ける。ファイさんは「女の子の顔に怪我でも残しちゃったら責任取らないとねえ。黒様。」冗談を含めて笑いながら言った。あたしは「あはー。嫁の貰い手なんて元々ないですよ。」と笑って答える。冗談を交わしているあたし達を他所に「では・・・さらばじゃ。」秘妖の艶かしい声と同時に津波のように襲ってくる水に向かってファイさんがまず飛び出す。その次に黒鋼さんが。余裕を含んだ声で秘妖は笑うがファイさんに気をとられていて黒鋼さんの存在に気づいたときにはすでに間合いは詰まっていた。あたしはと言えば2人に気を向けられている間に式神を造り出してそれに跨り、「ファイさん!」と声をかけてファイさんに手を差し出した。軽い身のこなしでファイさんは式神に乗ったのを確認するとしっかり捕まっててくださいね、とファイさんの方を見た。「ありがとー」へにゃりと笑うファイさんはあたしの腰に手を回した。(このひと、おんなのあつかいしってる・・・!)そう思いながらも今まで異性に身体、ましてや腰に手を回されたことなんてないあたしは、どきどきと心臓がうるさく鼓動を打ち鳴らした。

自分の居た世界では、物心ついた時には世界の終末の宿命を背負っていたし、男の人で知り合いなんて残さまたち三人しか学園でも知り合いは居なかったし。学校生活でも神威が来るまではずっと逆凪にあった時の為に友達も作らないようにしていたから女友達すら居なかった。あたしの代わりに怪我されたら大問題だから。
後は世界の終末の関係者の砕軌さんに、天の龍の空汰さんに蒼軌さん、神威に・・・あと一人誰だっけ?天の龍って七人だよね。さっきの三人に加えて女性陣の嵐さん、譲刃ちゃんに火煉さん。あ、れ?六人しか思い出せない。もう一人、あたしが一番覚えてなくちゃいけないひと・・・誰よりも付き合いが長いはずなのに。

突如脳にズキンと痛みが走った。黒鋼さんが秘妖の額にあった石を壊したおかげで秘術は消え、秘妖は晴れて自由の身になった。あたしも秘術が切れたと同時に式神を元の札に戻した。そこまで覚えている。誰かの事を思い出そうとしたら痛みが走り、思わず頭を抱えてしゃがみこむ。小狼くんの居る領主の所に進もうとしていたファイさんと黒鋼さんの視線を感じる。「先に、行っ、てく、だ、さい・・・」今までに感じたことのない激痛に意識が遠ざかった。

北都ちゃんと、あたしと、もう一人。