夏休みから数日経つとさすがに人気もまばらで、大半の生徒が今年の夏休みを家で過ごすのか、とぼんやりと寮の部屋から見える校門から学園を離れていく人影を見ながら思った。あ、でもこの学園の生徒は天体が大好きで入学してきたひとが多いと思うから、もしかしたら種子島とかは部分日食じゃなくて完全に太陽が消えちゃうらしいから案外南のほうに行ってるひとも多いんじゃないかな、とも思った。
私の家は残念ながらまずこの学校に私を進学させてくれただけで精一杯なので、旅行なんて縁がないのはわかってた。そんな私は帰省するのもまだ先なのでお盆までのしばらくの間は寮で過ごすことになっている。は一足先に帰省してしまったので、この数日間は一人でなんにもすることがないのでやらなかったら溜め込んでしまう天敵、夏休みの宿題でも少しずつやっていこう。うん。どのみち宿題にも星の観察があるわけで、人気のない屋上でぼんやりと長時間星を眺めるには絶好の機会だった。実際昨日も一人で星を眺めすぎて起きる時間が遅くなってしまった。7時半にセットされていた愛用の目覚まし時計を見ればすでに8時を大幅に過ぎていたあの驚きといえば、此処最近味わってなかったような冷や汗が背中を流れる心地と同じような感覚に陥った。なんせ今日は皆既日食。とはいえ部分的に欠けるぐらいしか此処からじゃ見えないと思うけれども、やはり天体が好きな人間としては次いつあるかわからない宇宙規模のイベントを逃すわけには行かない(まあ、次の皆既日食のほうが日本列島に居ても欠ける部分が増えるらしいけど)せっかくこの星月学園に入学したんだから、この学校でちょうど天体の勉強をしてるときにこんな天文ショーが見れるなんてついてる!

・・・と言ったものの今日の天気は曇り。さっきから太陽が見えたり隠れたり。よく太陽が見える場所を探している間にあと30分もすればこの地域でも太陽が隠れてしまう。いまだにベストポジション、と大声で叫べるようないい場所は見つかっていない。あと行ってない場所といえば屋上庭園。人が減った校内とは言えどもやはり屋上は人が多そうだな、と思ってできれば行きたくなかったんだけどもずべこべ言ってる場合でもなくなってきたのでとりあえず見に行くだけ見に行くことにした。

重厚な扉をゆっくりと開けると少しずつ開く扉に比例して風の吹き込む量も増えて髪や制服が音を立てて舞う。
開ききった扉の向こうには灰色がかった空と、庭園の緑、そして人影。思ったより屋上庭園には人が居なかったみたいで、まばらにしか人影は見えない。数人しか居ない人影の中で一際目立つ赤い髪の先輩が居た。月子先輩を通してたまにしゃべるぐらいだけれども、いつもあるものがなくなるという珍しいショー(しかも不定期にしか見えないし生きてる間に見れないことだってあるんだぞ、な特別なものである)を一人で見るより複数で見たほうが感動が増しそうだな、と思ったあたしは先輩に話しかけた。「ともえせんぱい。」そして声をかけてから気づいた。どうしよう先輩がこういうイベントを一人で見たいタイプの人だったら、と言うことに。(だっていつも月子先輩たちと一緒に居るのに・・・しくった!)
え、と月子の後輩の、振り向いた先輩は私を見て言うのでやっぱりあたし印象薄かったのに話しかけてよかったかなあ、「です。」と答えながら思った。
そうそうちゃん。と先輩はまぶしいぐらいの笑顔を向けてくれた。てか、まぶしい。(先輩今日はお一人なんですか?)(月子は部活だし、錫也たちも寮に居なくてね。)
この学校に入学してしばらく経つけれども、月子先輩の周りにいらっしゃる先輩はイケメンぞろいだと思う。そして並んでも見劣りしない先輩も相当美人だ。たまに学園で女子が少ないとは言えこんな美人な先輩と知り合いでいいんだろうか、と思うときがある。(そしては綺麗というより可愛い小動物だからなあ、とりえがないあたし一人やはり浮いている)
「土萌先輩も皆既日食見に来られたんですか?」屋上庭園のフェンスにもたれて太陽の方角を見て遮光板を片手に持っていた先輩を見れば一目瞭然なのにこんなことしか聞けないのかあたしは。「名前、羊でいいよ。月子の可愛い後輩だしね。」
私も呼び捨てでいいですと土萌、じゃなくて羊先輩に言うと「じゃあって呼ばせてもらう。」と言ってから南より少し東寄りに見える太陽を指差した。「でもやっぱり今日曇ってますね。」思っていたよりしょんぼりした声を出したことに若干びっくりしつつ手に持った遮光板を通して太陽を見た。晴れたときに見える景色とは違い真っ暗で太陽がどこにあうかさえわからない。太陽の位置を確認するために遮光板をおろしても雲に隠れた太陽はいつもとは違い肉眼で確認できるぐらいだった。隣に居た羊先輩も「肉眼でも見えるぐらいだね。」先生に見つかったら目悪くするって怒られそう、と笑いながら首からぶら下げていた紐付の遮光板から手を離した。続けて先輩は「そろそろ時間だね。」と真剣に太陽の目を向けた。







「ちゃんと見えたね。」

嬉しそうにまん丸に戻った太陽を見ながら先輩は子供みたいに笑っていた。
やっぱり天体ショーの中でもタイミングが重ならないと見れないから、星も好きだけど太陽が、うんぬん。 先ほどまで行われていた宇宙が引き起こす奇跡のショーを見た感想を述べる羊先輩は初対面の頃とは違い、無邪気に私に話をしてくれている。月子先輩じゃなくてごめんなさいと心の中でつぶやきながら先輩の話をまじまじと見つめながら聞いていた。
(聞いてる、って僕の顔に何かついてる?)(あ、いえ、先輩ってクールで月子先輩命っていうイメージだったんですが、ちょっと違ったなあと。先輩可愛いですね。)(なんだか色々ほめられてる気がしないんだけど)

何?って哉太と同じタイプなの?