今日は待ちに待った球技大会!・・・な、わけもなく。残念ながら球技=ドッヂボールという残念な頭の構造をしているあたしにはまったく縁のない祭典の一つだと思う。
正直種目はどれも苦手な奴ばっかり。球技は結構得意なはずなのに出来ない種目しかそろってないし、しかもクラスのみんなが種目を選んでいた今日の午前中に仕事で学校に行けなかったあたしに罰だよとでも言うかのように夜天が勝手にバスケにあたしの名前を書いていた。おかげでまた学校中でスリーライツの夜天と女優のは付き合ってるなんて噂が濃くなった。本当に人って噂が好きだなあとつくづく思う。 でも唯一の救いだったのは夜天が選んだのがバスケだったことだった。バスケ・ソフト・バレーの中で比較的まだ出来る種目といえばバスケで、一番出来ないのはソフトボール。もうまったく出来ない。話を聞けばうさぎちゃんが星野に無理矢理ソフトに入れられた腹いせにあたしも巻き込もうとしたみたいだったけど、みんなが助けてくれたのかはわからないけれどもバスケットボールに出場が決まった。
競技を決めたその日の放課後、ソフトボール優勝を狙っているはりきりまくった星野にうさぎちゃんはスパルタを受けていた。助け舟を出してあげたいと外野が思うぐらい星野は本当にやる気満々。元々運動音痴らしいうさぎちゃんにはとてもじゃないけど今の練習はただの苦行だと思う。・・・がんばって、うさぎちゃん。
「何あのやる気満々な星野。うざい。」とあたしが言うと夜天も同意してうなずいていた。それを見たまこちゃんが「夜天くんとちゃんコンビは辛口だなあ」と乾いた笑いを零した。だって本当に夜天じゃないけれども今の星野は見てて暑苦しい。暑苦しいのは嫌いじゃないけど星野のやる気ありありなスポーツ馬鹿加減がうざい。流石アメフト部。後星野筆頭にスリーライツを見に来たのかさっきから女子生徒がちらほらと来てはきゃーきゃーと騒いでるのもうざい。
するとざわついていた雰囲気は消えて逆光で旗が立ったのが見えた。するとスリーライツのファンクラブに入ってる亜美ちゃんたちは口々に「あれは!」とか「あの人は!」などと逆光で見えないその人に驚きを隠せないみたいだ。あの旗って言えば出てくる人はたった一人。

伊集院せんぱい。

スリーライツのファンクラブナンバー一桁とかだそうで、ファンには崇拝されてるそうです。どうでもいいんだけど。この間のホームズ少年の時も最前を取り巻きと一緒に陣取ってたなあ。夜天がそれを見てため息を吐いていたのを思い出した。夜天ってそういう風に干渉されるの嫌いみたいだし、オフにも口出してくる伊集院先輩が癪に障るんだろうな。アイドルって追っかけって言うのかな、熱狂的なファンが居て大変だなあ、ってそのときもいつも追っかけから逃げている3人に感心した。
今回もまたオフに口出したせいで今までうさぎちゃんと一緒に練習してて機嫌のよかった星野に一気に眉間に皺が寄った。口出すのはタブーとか言いながら口出してキレられてるの何回目だよ本当に。追っかけ怖い。

どうやらうさぎちゃんが星野と一緒に居るのが気に入らないらしい。いや、それにしてもなんでソフトボールで対決なのかがわからない。あ、ソフトボール主将だっけ?伊集院先輩美人だしプライド高そう。負けたくないんだろうなあ。
それと、と言葉を繋げた先輩は、あたしの方にくるりと体ごと向きを変えて、「夜天さまとさんはお付き合いなさってるのですか?」とうさぎちゃんに対して言った声色とは少し違った風にあたしに聞いてくる。いや、全然。そう言おうと口をあけようとすると横に居た夜天があたしの口を手で塞いで「だとしたらどうなわけ?」と伊集院先輩に挑発ぶった口調で言う。一瞬伊集院先輩の取り巻きから悲鳴のような声が聞こえたが、伊集院先輩は冷静にあたしから目線をはずさなかった。
・・・ちょっと、夜天。また余計なこと言いやがって。あたしには昼間仕事終わって学校に着いた時のひそひそ話であたしと夜天の噂がされていた事が過ぎった。また余計な噂が流れる・・・そう思いながら夜天の腕を振り払おうと必死にもがくが夜天の力は意外に強く、あたしの力ではびくともしなかった。そのちっさい体の何処にそんな力があるんだ!と心で呟いた。
「いえ、それなら結構です。」と案外さらりと話が終わったことであたしは誤解を解く余裕が無いまま伊集院先輩と取り巻きはうさぎちゃんに宣戦布告をしたからか、踵を返して去っていこうとしている。違います誤解なんです。取り巻きが次々に土手の向こう側に消えていく中で伊集院先輩は何かを思い出したようにこちらを振り向いて、あたしに言った。
「貴女、初めてお逢いした頃と比べてとても今とても生き生きしていらしてよ。」「昔の貴女ならきっと夜天さまとお付き合いしていらっしゃるのを認めるなんて出来なかったと思いますわ。」とにこりと微笑んで土手を降りていった。

ぽかんと口を開けたまま伊集院先輩が去った後も先輩が居た場所を見つめるあたしに夜天はあたしの口を塞いでいた手を離して「何、間抜け面してるの。」と言うけれども、あたしは誤解が解けなかったこと、そしてそれ以上に作り上げたより今のあたしの方が生き生きしてると言われて少し複雑な気分になっていた。つくった自分は、所詮つくったものだったんだ。


かわりめた 色 彩

「ところでちゃん。」美奈子ちゃんは大きな瞳をいつもの半分ほどにしてじろりとあたしを睨んだ。「やっぱり抜け駆けしてたんじゃない!!」とタックルをされそうになるのをよけると美奈子ちゃんは待てー!と声をあげながらあたしを追いかけてきた。

美奈子ちゃんに追いかけられてる時にちらりと今の現状の元凶である夜天を見て「追いかけるなら夜天を追いかけてよ!」と夜天の腕を掴んで道連れにした。
夜天はちょっと馬鹿!といきなりひっぱられたせいで体制を崩しかけるけれども次第に足が慣れてきた夜天があたしの腕を掴んでひっぱるような格好になると、振り向きながら遅いよ、と笑いながら言う夜天を見て何故か心臓がうるさくなったのを感じた。


(こらー!愛の逃避行するなああ!)(ぎゃー!美奈子ちゃんそんなつもりじゃ・・・な、い!)