昨日の事思い出しただけで気分が落ち込む・・・そりゃあね、言ってなかったあたしが悪いと言えば悪いんだけど、そんなこと普通友たちでも言えるわけないじゃない?
はあ、とため息をつくと、なんで今日はうまい具合にオフなのか。神様って意外と意地悪なんだなと思った。残念ながら出席日数は後これが2年間続くと思うと多分仕事以外で休んでる場合なんかじゃない。つまり行かないと留年。・・・神様って意地悪。本日二回目の神様に対する愚痴をこぼしながら校門をくぐっていった。
教室に入ると「あ、さん。久しぶりだね。病気大丈夫なの?」とクラスの委員長から言われて、適当に「あ・・・はい、大丈夫です、ありがとうございます。」と受け流しておく。昨日からあたしの素を知らない子の前で話すのは少し警戒しているのかもしれない。
それはもちろん芸能人としてのもだし、十番高校の病弱なに対しても。・・・本当のを知っている人なんてほとんど居ないのだから。
席に着こうとすると委員長が「今日転校生が来るらしくて女子は浮かれてるみたいだね。」と窓の外を見て言っていた。さっき校門をくぐったときは別にそんなに人は居なかったのにこの数分間でなぜか校門の周りには女の子がいっぱい居た。
別に興味ないし、と心でつぶやきながら、十番高校でのらしく途中まで読んでいた中原中也の詩集を鞄から取り出した。これは素のあたしの趣味でもあるのだけれど。
しばらくして先ほどまでほとんど居なかったクラスの女の子たちが一斉に教室に入ってきた。それを横目にちらりと見て、また本に目を落とす。沢山の女の子の中でも特に目立っていたあたしの席の前の愛野美奈子ちゃんがあたしの席の前に鞄を置くと、「おはよう、ちゃん!」と挨拶をしてくれた。正直こっちは少し気まずいと思っていたけど、向こうはあまりそうは思ってなかったみたいなので、本から目を離して美奈子ちゃんの方を見るとおはよう、と控えめな声で挨拶をした。
すると美奈子ちゃんの周りにうさぎちゃんとまこちゃんが寄ってくるなり、「昨日のこと、ほんっっっとにびっくりしたんだけど!!!」と顔をずいと近づけながら美奈子ちゃんはあたしに言った。「お願いだから内緒にしててね?」あたしなりの精一杯の可愛げのある声で美奈子ちゃんの迫力に動じていないフリをしながら答えた。ほんっとに気づけない!とか、髪型で案外人って変わるんだな。とか言うのはいいけれど、少し声がデカい。と心の中で思っていると、神様は今回は意地悪じゃなかったみたいで、丁度チャイムが鳴った。よかった。あんまり騒がれると目立ってしまう。病弱設定だけでも十分気つかわれたりして目立ってしまうのに、久しぶりに来るなりよくわからない事を言われていたりしたらやはりまた変な噂流れたりしたら困る。・・・でも病弱設定してしまったせいでみんなに気使われてしまうのは自分でも申し訳ないとは思ってる。けど、本当のことなんて言えるわけないのでいつも心の中でしか感謝できないけど。
チャイムが鳴った後すぐに担任が来て転校生が来るとかどうとか話してる。うちのクラスの担任はまじめすぎて話しがまったく面白くない。うん。久しぶりに聞く今日もやはり面白みがないまま転校生が入ってくる事となった。

・・・い、や。待て。おかしいでしょ、どう考えても。あれか、さっき美奈子ちゃんが「うちのクラスなの!?」とか言いながらあたしの方を見て、「ちゃん・・・うちのクラス、すごいことになるわよ!」とかよくわからない事を言いながらニヤニヤしてたのはこのせいか。
やばい。大変やばい。いや、今までバレた事はないけど、この一年アイツらと過ごすんでしょ?バレる可能性大じゃない。しかも考えてみたらアイツらが休んだ時にあたしも休むって事ありえるわけじゃないか。だって今同じドラマに出演してるわけだし。どうしよう。いや、でも実は思ってるほど怪しまれる事もないかも。あ、でもどうなんだろう・・・わからん、ホントどうしよう!
頭の中はごちゃごちゃだけど、必死に冷静な態度を保ちつつ教壇の側に立っている三人、スリーライツを見た。
一人ずつ自己紹介してる中あたしの頭はぐるぐると今後の自分がどうなってしまうのかを必死に考えるので精一杯だった。

朝からキャーキャー甲高い声で叫ばれてホントうんざり。僕たちの事全然興味なんてないくせに。
だから僕は学校なんて面倒なだけだ、って言ったんだよ。なのに大気ときたら勉学は大事、だとか言っちゃってさ。騒ぎになるなんて当たり前なのに。・・・ホント、迷惑な話だよ。
今日から担任になる男の後をついて行くと1年1組の前で止まった。呼ぶまで待ってろと言われてしばらく廊下で待っていたらまた教室から甲高い声が聞こえてきた。ねえ、こんなので本当に勉強なんて出来るの?クラスの半分は居ると思われるまだ見ぬ女子生徒の事を考えただけで一つため息がこぼれた。
担任の呼び声をほぼ同時に開いた教室の扉の向こうからはさっきより大きな声で頭が痛くなりそうだった。特に騒いでた金髪のロングの子が後ろを向いて後ろの席の子としゃべっているのがふと目に入った。うるさい子の後ろ、見た事あるってかじゃないの?
眼鏡に低い位置でツインテールをしているその子は、昨日もドラマの撮影で逢ったばっかりである女優のそっくりだった。うるさい子がキャーキャー騒いでるのを見て困った表情でなだめてるその姿は、正直いつも見てるとはまったくの別人に等しかった。他人の空似ともとれなくない、と思って居ると空いてる席に着くように言われて思考を一時ストップさせなければいけなくなった。
金髪のうるさい子が指名してきたので面倒だなと思うも其処以外にもう空いてる席がないので仕方なくそっちに移動すると、金髪の子は「ちゃん!やったね!」とに似てる子の手を掴んで言った。・・・って言った?彼女をもう一度見ると金髪のうるさい子に手を掴まれて困り顔で、目線を下に向けている。もしかして、と思ってと呼ばれたその子の机の前まで行くと目線をあげなかった彼女はおびえるようにゆっくりと目線をあげた。ああ、やっぱりじゃん。そう思っての眼鏡をすっとはずして、前髪の分け目を少しいじる。「何この変装。新しいギャグ?」僕が鼻で笑うとは引きつった笑顔を見せて「や、夜天くんでしたっけ・・・?眼鏡返していただいてもよろしいですか?」と白々しく答えた。その間にも周りの空気はざわついて「さんって名前一緒だな、って思ってたけど女優のだったの!?」なんていう声が多数聞こえてきた。

夜天と目を合わせないようにしていたのに美奈子ちゃんがきゃーきゃー騒いでたせいか見事にバレました。いや、美奈子ちゃんがあたしの名前言ったのもあるんだろうけど、わざとしたわけじゃないから美奈子ちゃんを責めるなんてことはしない。
引きつった笑みを浮かべながら夜天に眼鏡を返すように言うけれども、夜天は返すつもりないらしい。やばい。クラスの子にもバレてしまった。グッバイあたしの平凡な高校生活。明日からはスリーライツ同様あたしも学校の中に居る芸能人として扱われてしまうんだろうな・・・嫌だな。
せっかく友たちもそれなりに出来てたのに。後面白くない担任の先生にもちゃんと芸能活動してる事は黙っててください、病気って事にしておいてくださいって言ってたのに。ああ、もう全部台無し。高校1年生にしていきなり全部崩れた。
夜天に対してこみ上げてくる怒りを我慢しながらも、せっかく自分が求めていたものを掴めたと思っていたのに夢のように過ぎ去ってしまった事が悔しくて視界が潤んだ。あたしのぼやぼやとした視界の端っこでは担任があたふたしている。この今まであたしが黙ってたせいで重くなった教室の空気に耐えられなくなって、あたしは走って教室から抜け出した。

授業をサボるなんてはじめてだったから何処に行こうかと思ったけれども、すぐに屋上の存在を思い出して屋上に向かった。まだ少し肌寒い中、屋上のフェンスにもたれかかった。教室帰ったらどんな風に接すればいいんだろう。弁解のしようなんてないじゃないか。うさぎちゃんや美奈子ちゃん、まこちゃんはあたしの事知っていたとは言え、前みたいにいっぱいしゃべれるかと言えば、クラスの空気的に離れてしまうだろうなと思った。もっとうさぎちゃんたちとおしゃべりしておけばよかったなあ。はあ、とため息をつくと空を見上げた。
女の子らしく生きてみたかった。それが何よりもあたしが平凡な学校生活を迎えたかった一番の理由だった。
あたしは性格的にまったく女らしさとは無縁だし、音楽だって可愛い女の子が歌ってるのよりロックとか激しいのをよく聞くし、服の趣味だってそう。ほわんとした女の子らしいスカートより普段のあたしはいかついスタッズがついてるスカートをはいてる事が多い。
でも本当は可愛い女の子テクノとか、ほわほわしてるスカートとかはいてみたい。女の子らしくなってみたいんだ。でも素のあたしじゃ臆病だから出来ない。だから自分を作った。それが女優のであり、高校生活においてのだった。
女優でのはとりあえず万人に好かれるような典子みたいな女の子らしさがほしかった。うん、まあ実際は典子と一緒に居るせいかキャピキャピしてる典子と反対のちょっと大人しめの服装が多くなった。その為に言葉遣いや髪型も変えた。それもあたしが理想としている女の子のひとつだったから。
十番高校に通うはとにかく目立ちたくなかった。だから地味な黒ぶち眼鏡かけてツインテールして大人しいキャラを作り上げていた。普段芸能活動しているせいでどうしても目立つ事が多い。実際中学のときは芸能活動してるのを隠してなかったから、うわべだけの関係が多くてそれが嫌でわざわざ学区から大きく離れたこの十番高校に受験した。一人暮らしになったけど、芸能活動し始めた頃から家に迷惑かけてるのにはうすうす気づいてたから丁度いいチャンスだと思って此処に来た。なのに此処でもまた騒がれるなんて。
身バレしたくないが為だけにまとめていたヘアゴムをそっとはずす。もうこんなのいらない、か。本当に教室戻りにくいなあ。

休み時間を告げるチャイムが鳴るとしばらくして屋上の扉が開いて、目を向けると其処にはあたしの高校生ライフをめちゃくちゃにした張本人が立っていた。すぐにまた目線を空にやると、夜天は「いつまで偽ってるつもりなの?」とあたしに聞いてきた。・・・そんなのあたしだってわかんないよ。口に出すつもりはなかったのにポロリと本音がこぼれた。どうせ夜天たちにはあたしの素なんてとっくの昔にバレてるから気にしないけれど。「なんで素の見せないの?」「・・・夜天にはわかんないよ。」あたしがなりたかった女の子らしさなんて。
すると夜天は顔をしかめて「馬鹿じゃないの?」なんて言ってくるからなんですって、と言いかえそうとすると夜天に腕を掴まれてそのまま屋上を離れる。何処行くのよと言わなくてもわかる。このままじゃ教室に行っちゃう。ガラガラを音を立てて教室の扉を夜天が開けると、うさぎちゃんたちが心配して来てくれた。それを他人事のように見てるあたしに対して夜天は「このクラス、が思ってるようなうわべだけの奴ばっかりならこんなにの事心配するわけないでしょ。」とあたしにデコピンを食らわせた。地味におでこが痛くなった。けど、夜天が言ってることは本当で、実際みんな担任から話を聞いたのかこれからはノートとかも休んでる分取るから!とかやさしい声が沢山聞こえてきた。うれしくて泣きそうなんて気のせいなんだからね。こんなに支えてもらえると逆に隠す必要なくなっちゃったな、と思ったあたしは明日からはもう教室で眼鏡は必要ないなあ、と登下校のみに眼鏡を着用しようと決めた。

放課後、おかげさまであたしが芸能人だと言うこともクラスに馴染んで来たところで、星野が部活見に行きたいと言うのでうさぎちゃんたちは星野についてまず体育館に行くらしい。それを聞いたあたしは「へーそうなんだー。」で流そうと思っていたのに星野にお前もついて来いと言われたので仕方なくついて行くことにした。めんどくさい。今度ジュースでもおごらせてやろう。体育館に移動してる間に何人の人に見られただろうか。ってこの学校だっけっていう声をどれだけ聞いただろうか。いや、別に気にしないけど。でも多分見られたのは半分はスリーライツがそろいもそろって行動してるからだろうな。余計目立って仕方ない。
星野が何でも出来るなんてそんなの知ってるから今更バスケとか見ても面白くないんだけど。と思ってバスケの横でやってるバドミントンをじーっと見ていた。しばらくして夜天が面倒だから帰ると言うのであたしも帰ろう!と思って夜天にあたしも一緒に帰る、と言うと「うるさいからやだ。」とあっさり拒否された。無駄な時間に放課後を過ごせというのかアイツは。少しムッとしていると夜天は振り返って帰らないの?と聞いてきた。文句を言いたかったけれども帰りたいから何も言わずに夜天の後をついて行った。背中に美奈子ちゃんのちゃんずるい!という声を聞きながらも聞こえないフリをして逃げるように夜天を追いかけた。結局夜天とは靴箱の前まで一緒だったけど、教室に忘れ物をした夜天が先に帰ってていいよというのでお言葉に甘えて先に帰ることにした。流石に教室から靴箱までの距離なら同じクラスなんだし一緒でもいいけどそっから先、つまり家までの帰路を奴と途中まで一緒に帰るとなると目線が怖いから丁度よかった、なんて思ってないよ。スリーライツのファン怖いとか今更だし・・・!
一人になった帰り道であたしも眼鏡を装着!すると、今日そういえばマンガの新刊出るじゃんと思い出して浮かれ足で本屋に向かって歩いていった。


ハロー喧騒生活
この時あたしの知らないところでも何かが動き始めていた。