昼休みいつものように庭で昼ごはんを食べるために移動していた途中で咲羽が「あ、」と声を漏らしてある女生徒の後姿を追った。
先輩!」と背後から声をかけるとその先輩?は大きく肩を震わせていた。咲羽の方を振り返り「ど、ど、ど、どうしたの?さ、咲羽くん。」とても慌てて返事をしていた。
咲羽の肩ぐらいにある先輩の顔に自分の顔を近づける。先輩はその行動に少し挙動不審気味に目を泳がせていた。
咲羽はその反応を嬉しそうに眺めながら「紹介するよ、あれがわが君。」と先輩から見て斜め後ろに居た俺を指差した。
その後咲羽が強引に昼ごはんを誘うと渋々了承し、先輩は咲羽に手を引かれて歩き出した。

先輩は先輩と言うらしく、中等部の頃から咲羽や雪代、雅彦たちと知り合いらしい。雪代たちいわく中等部の頃から咲羽に強引に誘われてはお昼を一緒にしていたという。
桃太郎と獣基についても知っていたらしく、咲羽が俺を紹介したときに「君が桃太郎の生まれ変わりくん?」「そっか、ようやく逢えたんだね?」と心から嬉しそうに笑っていた。まるで自分のことのように。
今までの鬼退治について話し始めると先輩は真剣に話を聞いてくれて、紅や裏葉から現在に至るまで四人攻略したと言えば、また自分のことのように喜んでくれた。先輩の隣を陣取っていた咲羽は先輩の笑顔を見て微笑んでいた。(これってもしかして、)
「先輩は何科なんですか?生まれ変わりについて詳しいってことは先輩も生まれ変わりなんですか?」と言うと先輩は少し焦りはじめ、ちらりと隣に居る咲羽を横目で見た。咲羽は何かを察したようでなにやら後ろから黒いオーラが出し、逃げようとした先輩の手首をがっちりと掴んだ。
「祐喜様、先輩は国際科で、眠り姫の生まれ変わりですの。」あの先輩が手に巻いているのが媒体ですわ。と雪代が言う。え、あの先輩国際科なの!?シンデレラや親指姫と同じタイプには見えないけど…開いた口が塞がらない俺に、続けて雅彦が「先輩は今まであの媒体についても何も言わずひたすら咲羽から逃げていたつわものです。」おかげで成績は万年赤点らしいですが。と苦笑する。あの媒体を使って自分の世界に連れて行くのが授業だもんな…先輩と咲羽を見ると赤面しながら咲羽から必死に逃げようとする先輩を咲羽が掴んだ腕を引っ張って自分に寄せていた。…恥ずかしくないのか?
「だ、だ、だ、だってこの間ブラックアウトワールドに行ったんでしょ…?あんな危ないところに自分の都合のために誰かを連れて行くなんて出来ないよおおお…」「そ、それに私の世界は荊とかドラゴンとか試練がいっぱいだし…危ない、よ…」ってちょっと待て。
「ってことはお前ら国際科の媒体とか異世界とか知ってたのか!?」雪代たちの方を見ると「先輩は今まで何もおっしゃらずにひたすら媒体を取られないように逃げられていたので存じ上げておりませんでした。」もし知っていたら林檎を食しませんわ。と雪代が笑った。ああ、確かに。

「先輩さー、いつまでも意地張ってないで俺にその媒体頂戴?」や、やだ!と言う先輩に「だって今までなんで赤点かわかんなかったけどそれって自分の世界に繋げてないから赤点なわけだ?」と咲羽は続けた。先輩の息が詰まる音がする。黙り込む先輩に続けて咲羽は「荊だろうがドラゴンだろうが何があっても先輩の世界を俺がハッピーエンドにするからさ。」「その赤い糸、俺にくれない?」咲羽の歯が浮くような甘い言葉に雪代と雅彦は微笑ましそうに見ている。当の先輩はと言うと真っ赤になって呆然としてたが、ハッと我に返って無理矢理咲羽の体を押し返して咲羽の腕から逃れた。
「さ、さわくん、いい加減からかうのは、や、やめてよね!!」と言い残して凄いスピードで消えていった。まるで嵐が去ったよう。

雅彦がまた逃げられたと咲羽に言ったが本人は気にしていないようで、俺達のほうを向いて手を差し出した。咲羽の手には先輩がさっきまで手に巻いていた赤い糸があり、「後は先輩が歌を歌ってくれればオーケーってわけ。」とイタズラが成功した子供のように笑った。



ゴートゥ ユア ワールド、

国際科にて―
「あ!!」右手を見て慌て始めた友人に対してどうした?と声をかけると「どうしよう汐音ちゃん!咲羽くんに媒体とられちゃった…」と泣き始めた。中等部の頃から何かとに対してちょっかいをかけていた後輩がとうとう本気を出してきた。
高猿寺は強引だが押しが弱すぎるにはあれぐらい押しが無いとハッピーエンドは迎えられないだろう。今まで一度も自分の世界に王子様を連れてこないを心配していたが、最近は高猿寺が追い掛け回して来るので渡すタイミングがないとぼやいて赤面しているに少し安心を覚えている。もう少しだぞ、高猿寺。

万年赤点の優しすぎる彼女が、自分の小指と相手の小指を糸車で紡がれた赤い糸で結ぶことによって魔女先生から褒められるのはもう少し先の話。