お母さんが作りすぎた和菓子(っていうほど豪華なものじゃないけど)を届けるために九ちゃんの家に数日振りにお邪魔したら屋敷がボロボロになっていた。・・・え?どうしたのこれ。遠くのほうの庭に落ちてるものが気になって其処に行くと倒れていたのは人だった。しかも見たことのある柳生道場の門下生の人ばっかり。確かに今までも何度か九ちゃんの家に道場破り?というか自分の力を試すために試合を申し込んでくる人は居た。けどそのたびに四天王(って言う名前の変態ども)がこてんぱんにやっつけて誰一人としてケガすることなんてなかった。それだけ強い人たちで固められているはずなのにどうして倒れてる人が居るのか。
さらに屋敷を進んでいくと庭に植えてある綺麗に整えられた木々が無残に折れていたり、雅とは言えない状態になっている。柳生ほど伝統を慈しんでいるような一族なんて最近では滅多にないはずなのに、これは一体どういうことなのか。あまりの無残な庭に呆気にとられていると上から「危ない」という声が聞こえた。何のことか、誰に対して言ってるのか、そもそも何処に居るのかがわからなくてきょろきょろしていると急に晴れているはずなのに太陽が雲にかかったかのように暗くなった。へ、と間抜けな声を出して現状を理解できずに居るあたしにまた頭の上から声が降ってきた。「大丈夫か。」その声を合図にゆっくり上を向くと太陽の光でキラキラとした銀色の髪が視界にまぶしく映った。刹那キラキラとした髪の毛の隙間から見えたするどい目に自分でもどきりと心臓が動き始めたのがわかった。そして自分がその人に抱きしめられているのもようやく理解して、頭がキャパシティーオーバーになってしまった。その人の背後からちらりと見える影には見覚えがあった。九ちゃんのおじいさんだ!と思ったのとほぼ同時におじいさんより少しあたしから見て左上から聞きなれた声がして見上げると其処には九ちゃんが居た。
「きゅうちゃん。」あたしが九ちゃんのほうを見ると銀髪のお兄さんがあたしを見て「なんだ此処の知り合いか?」とあたしを抱きしめていた腕を緩めて距離を保った。「、危ないから今来ちゃだめだ。」塀の上から九ちゃんはあたしに言った。何が危ないんだろうと思って少しあたりを見回してみようと目線を下に向けるととさきほどの銀髪のお兄さんの危ないと言う言葉を目の当たりにした。あたしがさっき立っていた場所には鬼瓦のような大きめな瓦が落ちて砕けていた。あたしが半笑いに顔を引きつらせていると銀髪のお兄さんは「アイツの言うとおり危ない。気をつけろよ。特に庭には近寄るな。危険だ。」と頭をぽんぽんと撫でてくれた。さっきの真剣な目つきとは違ったふわりと笑った表情に釘付けになった。


そしては訪れた。

柳生家で行われていたよくわからない試合が終わった後日。九ちゃんにさっきのお兄さんにお礼を言いたい(という言い訳でもう一度会いたい)ために色々話を聞くたびにどんどん思いが膨れていく。