ちいさまにえぞにいくといわれたのがほんのすうじつまえで、きょうはあのさくらのたいぼくがきえていちねんがたったひ。
ほんとうはきょうからえぞをめざすつもりだったけどできるだけはやくはこだてにつきたくて、あたしがむりをいって、すぐにえぞにむかったのでいまあるいているのはえどにちかいこうしゅうかいどう。なんでそんなにあわてていたのかは、あたしじしんもわからなかった。
ここでもあのたいぼくはたたかったんだ。あたりをみまわすとまだきょねんのせんかのあとがのこっている。
たまにみかけるきのみきにあるじゅうだんのあとがなんともまだまだなまなましさをかんじさせる。

ちいさまはあたしの3ぽほどまえをただまえだけをみてあるいている。ちいさまはいま、なにをかんがえてるのかな・・・あのひじかた、だっけ。ゆいつちいさまがおににちかいにんげんとみとめたおとこのことなんだろうか、それともあのこのことでもかんがえているのかな。うしろであたりをきょろきょろしているあたしにはちいさまのひょうじょうすらみえない。
でもさいきんはそれでいいとおもってきた。それでもちいさまはあたしをそばにおいてくれているから。

こうしゅうかいどうをぬけると、ちいさまはあしをとめずにちらりとうしろをむいて「寄り道をして会津に行くか、まっすぐ箱館に行くか。、お前に選ばせてやる。」とおっしゃった。どうしよう、どっちがいいんだろう。きょうというひはいちにちしかなくて、あしたはちがうひになってしまう。しんせんぐみがなくなったきょうじゅうにいけるならいきたい・・・だけどまだかいどうをぬけたとはいえこうしゅうだ。あいづのほうがちかいのはたしか。だけど、あいづはかえりにでもよれる・・・どっちがいいんだろう。
「・・・さきに、はこだてにいきましょう。」きょうじゅうに、できればいきたいです。というとちいさまはまえをむきながら、おまえならそういうとおもったとわらっておっしゃられたようなきがした。

けっきょくはこだてについたのはひづけがかわってあさがただった。だけどよりみちをしておそくなるよりはよっぽどあたしにはうれしかった。
ずっとあるきっぱなしだったけども、いままでもそんなことがおおかったせいかべつにくではなかった。ずっとちいさまのせなかをみてあるいていた。はこだてについて、ようやくちいさまのとなりにたって、ちいさまをみた。(いままでみなかったのはこい。)はこだてについたらさいしょにちいさまのかおがみたいとおもっていたから。

ごりょうかくふきんをあるいていると、みたことのあるさくらのきがあった。いまはもうみどりのはっぱばっかりがついているこのきは、かくれるしかできなかったちょうちょうのゆいつみつがすえたあのたいぼく。
いつのまにかまたあたしよりまえをあるいていたちいさまのあしはとまっていた。こえをかけようとおもったけど、それすらできないぐらいちいさまのよこがおはいまにもきえそうだった。
ちいさま・・・ちいさま・・・ちいさま・・・こえにだしたいのにちいさまにはとどかないきがしてだせなかった。
ちいさまがさくらをみているあいだあたしはどうしていいかわからずそわそわしていた。さくらのたいぼくをみつめるちいさまがあまりにもいとおしそうなひょうじょうをしていて、あたしのしらないちいさまをみせられたきがしてあたしだけかやのそとにいるようで、ただちいさまをみつめているともやもやしたなにかがこころのなかにあるかんじになって、ちいさまをみてはめをそらして、そわそわそわそわとしていた。

あたしのしらないちいさまがまたふえた。

みにくいしっとだときづくのにはじかんなんていらなかった。このかんじょうはだれにむけてあたしはかんじたのだろうか。あのこ?ひじかた?それともおきた?・・・あのたいぼくじしんなのかもしれない。しんせんぐみというしゅうだんは、いままでなにごとにもきょうみをもたなくて、ただかくれているだけだったじんせいでいきてきたちいさまにきょうみをもたせた。そしてすこしずつだけどちいさまはやさしくなった。まえよりだいぶまるくなった。 それはあのことしんせんぐみのおかげだということはうすうすきづいていた。 あたしにはなにもできない。そのへんかをみとどけるだけ。となりいにいたはずのちいさまがいつのまにかさくらのちかくにいた。さくらとのきょりはとてもちかいのに、あたしとのきょりはとてもとおい。
きっとそれはちいさまのしんじょうなんだ。あたしなんてやっぱりあのこにはかなわない。・・・ちいさまにあんなやさしいえがおをしてもらうことなんて、あたしにはいっしょうないとおもう。

・・・あれ、あたしはそれでよかったんじゃなかったっけ?それだけじゃいやだとおもってるのかな。あたしはちいさまにどうおもってほしいんだろう。ただしあわせになってほしかっただけじゃなかったんだろうか。
わからないよ、わからない。あたしはちいさまのなにで、ちいさまはあたしのどうでいてほしいの?

あのこならどうするんだろう。なにもかもがわからなくなって(あたしはいつもあのことあのさくらのたいぼくにふりまわされてる)したをむいておくばをぎりとならした。ああ、わからない。 「。」ちいさまによばれてさくらのほうをみればちいさまはいなくて、こえのするほうをみたらあたしのすぐそばにいらした。「ちいさま・・・」「ちいさま、あたしはちいさまのおやくにたってますか?」なみだがでそうなのをこらえてあたしよりずいぶんせがたかいちいさまのめをしっかりとみてきいたら、ちいさまはびっくりしたかおをしてあたしをみた。それからちいさまはさっきさくらのたいぼくをみていたときとおんなじぐらいやさしいえがおで「お前は役に立ってなくても俺の側に居ればいい。」「・・・役に立ってないと自分で言ったあとになんだが、お前は十分役に立っているから心配するな。」とあたまをなでてくれた。
もやもやがすこしはれて、まえがみえなかったこころはすみわたった。あたしがはやくえぞにつきたかったのは、きっとこのさくらにあいたかったから、かもしれない。じぶんでもきづかないなにかが。

ねえ、さくらのたいぼく。らいねんもここにきていいかな。
なんだかんだいって、きょうとにいたときがいちばんたのしかったのはあたしなのかもしれない。
どこからともなくふいたかぜに、さくらのはなびらがちったようにみえた。それはとてもあざやかで、あたしのみまちがえにはみえないぐらい、きれいなうすべにいろだった。



拝啓、過ぎ去った過去
(ちいさま、らいねんもはこだて。いきましょう。)(・・・ああ。)
つぎはしんせんぐみがとおったみちをすこしずつたどっていきたい。

あなたたちがいきていたしょうこをみつけてあげる。