これが最良の選択ならばよろこんで選ぼう。




現実にならないで欲しいと願う未来が決まっていたのなんて随分前からわかっていたことなのに、今まで臆病になって出来なかった。だけど後で後悔するような性分ではないゆえに、今出来ることをやるべきだとやはり思った。
出来なくて後悔しても、それは僕のただの我が儘でしかすぎないのだから。
を探して街をうろついてみたものの見当たらない。いつも一緒に居る澪たちに聞いても知らないと言われ自ら街に出てが思い当たるところを探しても居なかった。(あんな話をしようとしているときに行方不明になるなんて、)まるで運命には逆らえないと誰かに言われているようで少しぐらつくところがある。
日も暮れてきて、を結局見つけられなかったなと思っていると後ろから探し人の僕の名前を呼ぶ声がした。「少佐。」振り返った僕に笑顔を見せる。(無意識の残酷は)まるで僕のことを見透かして心のうちで嘲笑っているかのような、無垢な笑み。
立ち話もなんだから何処かでお茶でもしよう、僕がそう言えばはまた笑顔で答える。

(笑顔とは時にとても残酷なものだと知った)


夕暮れ時の人通りの多い街並から少し離れた古びれたひと気の少ない喫茶店に入って「好きなもの選びな。」と言うとはメニューに釘付けになった。こんな表情を僕に見せてくれるのもきっとこれが最後だろう。今後彼女が今まで見てきた笑顔よりも眩しい彼女らしい笑顔をうかべていたとしてもその相手は僕ではない。
は店主らしき男性にモンブランを頼み、早く来ないかな、とはしゃいでいる。(ああ、完全にタイミングを逃がしたかもしれない。)話をすすめようとしても彼女の笑顔に気圧され気味な自分が居た。自分で言うのもなんだけれども、僕はに対して相当な愛情を注いでいたようだった。

(多分、それは家族とかそんな感情ではない)


店主らしき男性がモンブランを持ってきた時にまさかのサービスでオレンジジュースをもらって大層喜んでいるを見ていると、本当に自分がタイミングを逃がしてしまったのがよくわかる。むしろ、(今日と決めた日に限っていつもより幸せそうに見えるなんて)本当はただいつもより幸せに見えるのではなくて、僕がいつも幸せそうに微笑むをちゃんと見ていなかっただけなのか。そうだとしたらどうして今までもっと彼女を見ておかなかったんだろう。人は何事も最後にならないと何もわからないってことなのか。ケーキを幸せそうに頬張る向かい側の席の彼女を見ているとこちらまで頬が緩むのがわかった。(心の内の葛藤は彼女にはわからない。)
「あ、少佐もしかして食べたいですか?」そういってはフォークを差し出してきた。「間接キスでもいいなら貰いたいな。」と言うと彼女の頬に紅がさした。「そんな冗談言ってるとあげませんよ。」とバツの悪そうな表情をしているからフォークをさりげなく奪って食べると、あまり甘みの無いモンブランに少し味気の無さを感じた。いつもなら甘さ控えめを好むはずなのにそう思った。(もっと甘かったら、)甘かったらもう少しをからかって、いろんな表情が見れたかもしれないのに。
(最後になるなら君の表情をもっと沢山見たかった、)なんてベタなドラマのような思いを巡らせているとが「少佐・・・モンブランはお口にあわなかったですか?」と控えめに聞いていた。ああ、僕がずっと黙り込んでいたからか、とわかるには時間はかからなかった。僕は笑顔でおいしかったよ、と答えるともまた笑顔になった。いつもなら僕好みのおいしいモンブランだっただろうに。
サービスでもらったオレンジジュースを飲みきったは満足そうに笑って、「また少佐をお茶したいです。」と言った。そうだね、と僕はただ答えた。次にかける言葉すら見つからないぐらいその瞬間は余裕がなかった。

(いいや、これが最後のお茶会になるんだよ)


まるでアリスのティーパーティーのように、話が噛み合わないまま進んでいって終わる最後のティーパーティー。
会計を済ませて店を出ると夕暮れの赤色は遠くに消えていて、空のほとんどを暗い濃紺が包んでいた。人通りの多い大通りから少し離れた路地には、人っ子一人見つからない。を彼女のマンションの扉の前に着くまでがタイムリミット。扉の前についたら最後だ。だからこのの住んでいるマンションの前までの時間は無駄にはしたくなかった。テレポートなんてもちろん論外。と隣に並んで歩いているというこの事実さえ、僕以外の誰もが知らない事実となるのだから。
望んだ時間というものはすぐに過ぎ去ってしまうもので、気づけばもうの住んでいるマンションは目の前だった。に最後の別れを言うべく、僕はの名前を改めて呼んだ。
、今日は楽しかったよ。」無理矢理笑顔を作る僕に気づかないはこちらこそありがとうございました、とペコリと頭を下げた。(最後まで君は、)とても残酷だね。こんなに近くに居ても抱きしめてはいけないのだろう?(僕は君の親。)(君は僕の、)
ねえ、と切り出すとは僕の目を見て話の続きを待った。「いいかい?僕が合図をしたら目を瞑って。僕の足音が聞こえなくなったら目を開けるんだよ?」どうしてですか?と聞くに明日もまた逢えるおまじないだよ、と冗談ぽく言った。も冗談だと思ったらしく笑顔になった。そうだね、また明日も逢えるよ。「。ゆっくりおやすみ。さあ、目を閉じて。」瞼が降りるのを確認したあと、彼女の瞼にひとつ唇を落とした。瞼を開きかけたにまだ目を開けちゃダメだよ?と耳元で囁いた後、おやすみ。と最後の別れを告げてその場を歩いて去った。が目を開けたとき、彼女は僕の事なんて最初からなかった事のように忘れているだろう。

君が僕の身代わりとなって消えてしまう未来を変えるためならば、






さ ぁ 僕 を 拒 絶 し て




B.A.P.Dさま提出//20081213  田中ゆき