学校でいまどきはやらない遠足に行ってまさかの林道からずり落ち、友達からはぐれてもうどれぐらい経っただろうか。
左足がずる向けになってうまく力が入らないから、友達や、学校のひとたちと合流するためには大声を出して助けを求めることしかできなかった。こんなことならもっとマシな靴はいてくればよかったな、とボロボロの黒いスニーカーをじっと睨む。
前の日に雨が降っていて地面がすべりやすくなっているのはどっかの担任も言っていたはず。あたしだけがその餌食となったのだけども。あの情けなさと言ったらもう二度と思い出したくない。

はあ、ため息がひとつこぼれて、自然と目線が上にあがってしまう。自分はこの高さから落ちてきたのか、とおもうとやっぱり情けなさが止まらない。
立ち上がろうと無理に左足に力を込めたらあまりに痛すぎて無意識で超能力を使ってしまった。一応自分のポリシーとしてよっぽどじゃなかったら超能力を使わないようにしているんだけども・・・立ち上がれないのは正直よっぽどに入るのか、入らないのか。誰か教えてほしい。むしろ立ち上がるより、団体行動を乱したことに大きく反省するべきだとおもうけど。

自分が落ちてきた場所が見えないほどの緑の茂り加減、あたしの気分と連動してるかのような空模様。あれ、さっきまで晴天だったよね、とおもうぐらいの一面の灰色。灰色にあわせて緑も新緑の黄緑が深い緑色に変わっている。はあ、ついていないなあ。どんどんテンションが下がっていくのがわかる。

はあ、二度目のため息をついて視界にはいった黒いローファーに黒いズボン。ひとなんていなかったよね?思い当たる人間はただ一人しかいなかった。あ、と声がのどを通りかけたとき、ぴゅんと目の前に小動物が近づいてきた。その小動物はあたしのひざにちょこん、と座ってあたしの名前を呼んだ。「桃太郎。」と、あたしが彼の名前を呼ぶと彼もなんだ!と元気よく返事をしてきた。うん、もう誰かわかったよ。一呼吸あけてくろずくめのひとを見上げると、予想通りの銀色の髪の毛。雲行きが怪しくなっている空とは違って、キラキラとしている銀色。・・・また悲しそうな顔をしている。

きょうすけ、名前を呼ぶと彼はなにも言わずに手を差し出してきた。まわりを桃太郎が飛び回っている。桃太郎のしゃべってることはところどころ聞こえなかったけど、とりあえず京介を罵っているようだった。いつものことだけど。でも京介はいつものように桃太郎と言い争うわけでもなく、ただあたしに手を差し伸べてくれた。「歩けないんだろう?僕と一緒に行こう。」差し伸べられた手に思わず触れそうになった。目の前にいるのは、バベルの敵。ギリギリの思考回路で無理矢理こじつけた理由。
本当はそんなんじゃなかった。[一緒に行こう]覚えのある台詞だったから。聞こえてもいないのになぜか京介の言う女王という声が聞こえた気がして、触れかけた手を思い切り叩いた。あたしには掴めなかった。あたしの行動にびっくりしているのか、京介はしばらく動かなかった。叩かれた手のひらを見つめたあと、吹き出した彼は笑ったままあたしの頭を撫でた。それを拒否することはあたしにはできない。

「君をこんな風に育てたのは僕かな。」と撫でながら言う彼は、やっぱりまた悲しそうな笑顔をしていた。左足の痛みだとか、遠足だとか、団体行動だとか、そんなことを全部忘れさせてしまうほどあたしの中での京介の存在は、おもった以上に大きかった。その差し伸べられた手さえも掴めたらどれだけ楽になれるだろうか。
本当は京介と居たいのだろうか、それすらもわからない。ただ確実にあたしの頭で理解されていることは、京介は平穏だった現実をまた掻き乱した。

雲行きは更に怪しくなる空に映える銀色の髪の毛にそっと触れて、時間すらも止まればいいとおもった。


組 み 解 か れ た 両 腕


もう少し、京介と居たいとこころからあたしは願ってしまった。振りほどいたのはあたしのはずなのに。