兵部京介という男には本当に困ったものだ。彼との出会いは遡ること10年ぐらい。まだあたしは小さくて物心がはっきりついてしばらくしたぐらいのころ。親は突然エスパーであるあたしを捨てた。そのころのあたしは力の制限がきかなくて、暴走していた。これでもレベル6のエスパーだ、といわんばかりだった。そして、そのせいであたしは捨てられた。もともと両親共にエスパーをあまり好む人でもなかったから、なおさらで。気づけばひとりだった。親の顔なんてもう覚えていない。
そんなときに彼、兵部京介に出会った。はじめはすごく警戒していたけど、次第に警戒してるのが馬鹿らしくなるほど、彼は無垢だった(いろんな意味で)自分に素直で、あたしはこの人となら一緒にいれる、と。そう思っていた。
そんな泡沫の夢も消えて、京介はあたしを捨てた。きりつぼくんにひろわれな、と言われたその後、あたしはバベルに拾われた。心にぽっかり穴が開いたかのごとく、バベルでの毎日は退屈で、窮屈だった。

それから何度もの季節がすぎても、あたしは京介と居たあの短い間が忘れられなかった。いや、忘れたくなかった。あの時間こそが、あたしがあたしで居れた時間だと信じているから。 そしてあたしは、チルドレンのみんなと知り合って、皆本さんと知り合って、今に至る。桐壺局長に拾われてからしばらくは塞ぎきっていたあたしだったけれども、最近となってはあのときのことなんて思い出せないぐらい多忙な毎日と、ぽっかりと開いていた穴も、少しずつ塞がってきた。いつまでも過去に囚われていないで居ようと思った矢先のこと。

兵部京介はまたあたしの目の前に現れた。

本当はもっと前から、接触することはあったのかもしれない。だけどそれは本当にたまたま、チルドレンと任務を任されたときに、彼は現れた。薫ちゃんのことを大層気に入ってて、よくチルドレンの前には現れていたとか。なんで、あたしの前には現れてくれなかったの、思わずそんなことを口走りそうになるほど、あたしはあのとき混乱していた。塞がった穴から零れ落ちる記憶。
あの時掴まれた腕が今でも時々悲鳴をあげている気がする。たぶん、京介のことを考えているときに限って。ジリジリジリジリと、熱くなって、悲鳴をあげる。
今度こそちゃんと京介と話がしたい。次にいつ逢えるかもわからないのにあたしはただ、次に京介と逢うことだけを考えてまた夜が明ける。


エピソード・ゼロ




    

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