油断してた。あたしは藍染隊長、いや、藍染様のお気に入りとして此処に連れてこられていたことに。別にひがみが嫌な訳じゃない。毎度毎度同じ人が寄ってたかってあたしを殴ったり蹴ったり。別にそんなの気にしない。みんな藍染様が好きだからやってしまうんだ、と割り切っていた。 でも今回だけは切り捨てられるかもしれない。・・・織姫ちゃんばっかり。藍染様も、あの人も。

24個シリンダー
今日もあの人はあの子のところ。知ってるよ。二人がお似合いってことも、あたしだけがいつも蚊帳の外だっていうことも。織姫ちゃんは可愛いし、性格いいし、みんなそういう子の方がいいに決まってる。周りに同じ破面じゃない奴として織姫ちゃんと比較されるのが怖くてずっと部屋から出られない。怖い。あたしは何も出来ない死神で、織姫ちゃんは人間だけどみんなの役に立つ人間で。
外に出るとみんなのあたしが要らない奴だって、言ってる声が聞こえる気がして、部屋から出られなかった。唯一出るときといえば、藍染様に呼ばれるときだけだったけどそれすらも今は嫌で。藍染様に嫌われるのが嫌で、切り捨てられるのが嫌で、ただのわがままって分かっているけれど被害妄想と呼べるのか分からないものは大きくなっていくばかり。
この間はグリムジョーがいきなり部屋に来てあたしを部屋から出そうとしたけど泣き喚いて出なかった。もう誰もあたしなんてかまってくれないだろうな。分かってるよ、嫌われてるのなんて。

呼び出されてどうしても断れなくて出た廊下は、最後に見たときより白く感じた。(同じ白なのに。)ふらふらと藍染様のところに行こうとしたその先に居たのは紛れもないあの人で。あたしの世話をしてくれていて、いつの間にか織姫ちゃんのお世話をしているあの人。あの仮面の形からして、あの背の高さからして、彼だった。
「・・・うるきおら?」
こちらを向いた彼はあたしの名前を呼んで気まずい表情を見せていた。・・・隣には、あたしが部屋を出なくなった理由をもった、彼女が居たから。 横に居る織姫ちゃんはあたしが部屋から出なくなったことなんて知らない。だから何食わぬ顔をしていた。そしてニコ、とあたしに向かって笑った。・・・そのやさしさがあたしには棘となってしまう。この間グリムジョーが言ってたことを思い出した。ウルキオラと織姫ちゃんのはなし。それは本当なの?なんて聞く勇気もなく、織姫ちゃんに笑い返すほど器用でもない。逃げるしかなかった。弱いあたしには。

遠くであたしの名前を呼ぶ声がする。聞こえないよ。藍染様のところに行くには、別の道はいくらだってある。ごめんね、織姫ちゃん、あなたは本当に悪くないんだ。弱いあたしがいけないだけだから。




いっそ、死んでしまえればいいのに。
(届かない君の愛)(届かない僕の愛)