「ううう、この続きすっごく気になる・・・」放課後。夕方といえば共働きをしている我が家には誰も居ないしテレビもつまらない主婦向けの番組の延長線か、まじめなお堅い報道番組しかやっていないこの時間帯で、家に帰ったところで無駄な時間を過ごすだけだ。おなじくだらない時間を過ごすなら学校で野球部の声をBGMに友達と教室で話しているほうが楽しいじゃないか。
そう思って幼馴染のボニーやロー、キッドを誘ってみるもボニーはルフィと一緒に食べ放題スイーツに行くらしく断られた。もちろん誘われたけど月の終わりごろの手前、バイト代も小遣いもない一番貧困な時期ゆえに断った。他の二人は省略。リア充なんて滅べばいい。
結局放課後の教室にひとり、ナミから借りた漫画を思った以上に読みふけっていた。ああ、ナミからレンタル料とられても借りてよかった!ちょう面白いよ、ナミ。女神か貴女は。
読み進めていくこと一冊と数ページ。ガラガラと音を立てて教室の扉が開いた。あれ、まだ部活が終わる最終下校には早くないかと思って扉を見ると其処には、「え、エースせんぱい・・・」サッカー部でルフィのお兄ちゃん(そしてあたしのすきなひと)のエース先輩が息を切らしながら立っていた。

固まったままのあたしを見て先輩は「ルフィは?」と、いつもどおりの言葉をかけてきた。(知ってる、先輩の頭の最優先事項がルフィだってことぐらい、)その次は勿論食べ物。知ってる。頭では理解していても実際に先輩に話しかけようとするもうまく口が回らない。心臓はどきどきと脈を早めるばかり。「あ、え、っと・・・ルフィならボニーと一緒に食べ放題に行きました、よ。」なんだよ、がくりと肩を落とした先輩はため息を一つつくと、あたしの方にやって来た。「は何やってんだ?」先輩の声に心臓が大きく跳ねる。先輩は最近になって急にあたしを名前で呼ぶことが多くなった。ついこの間まで苗字で呼ばれていたのに、ついこの前のお昼休みに屋上でいつもみたいにご飯を食べていたらフェンスにもたれかかり胡坐をかいて座っりながらフランスパンをかじっていたときに先輩に呼ばれてからずっと名前で呼ばれている。自分の名前なのにいまだに慣れないそれは、毎回心臓に悪い。

また言葉を詰まらせるあたしを余所に先輩はあたしが座っている椅子と机のセットの目の前まで来ていた。漫画を覗き込むように高い身長をかがませる先輩は、なんだか可愛い。「お、それこの間ナミが読んでた奴じゃねーか。」「うぇ、あ、ナミから借りた漫画ですから・・・」なるほどな、とつぶやくと先輩はあたしの座っている席の前の椅子(ちなみにボニーの席)をひくと後ろ向きに座った。前を向くと先輩と目が合う。思わず恥ずかしくなって目を漫画にやるが、先輩の視線はまだあたしに向いているらしい。視線が、痛い。視線を感じるのを紛らわせるようにページをめくるフリをしながら震えそうになる声を出して先輩に問う。 「せ、先輩。今日部活は?」「あー・・・今日はさっきまで補習だったからよ、休んだ。」なんと。先輩はサッカー部の切り札とも呼ばれていて、すごくサッカーがうまい、らしい。(ルフィたちに連れられて何度も試合を見に行ったけれどもうまいへたっていうのがあたしにはよくわからない。)先輩自身もサッカーがルフィもしくは食べ物と同じぐらい好きだと言う事は周知の事実だった。「マルコの教科見事に赤点だったからなァ。」マルコ先生の教科、古典は赤点を取ると地獄を見るというので有名なのだ。前日に試合があったんだから仕方ないだろうとぼやく先輩に思わず笑みを零してしまった。「こら、笑うな。」あたしのおでこに軽くデコピンをした先輩の指が触れた部分は、痛みなんてないのにとても熱い。やめてくださいよぉ、と言うと先輩は嬉しそうにしししと笑った。(この笑い方、兄弟そっくり。)

「なあ、。」「は、い?」「少女漫画なんて面白いか?」背もたれに顎を乗せてあたしを見上げるようにして話す先輩に対してあたしは「うー、ん・・・この漫画、どうしても読みたかったからナミに借りたんですけど・・・キュンってきましたよ。」「なんていうか、少女漫画みたいな恋をしてみたいっていうか、なんていうか・・・ああああ、よ、よくわからないです・・・」うまく説明できない恥ずかしさに漫画で顔を隠すとすぐに先輩の手によって漫画を持つ手はおろされ、いつの間にか見上げられていたはずなのに、あたしが見上げる側となっている。「お前、ホント可愛いな。」屈託のない笑顔でそんなことを言う先輩を見て、あたしの体温は一気にボンッと音を立てて上がったに違いない。「あんまりそういう冗談は・・・」「冗談じゃねえよ。」駄目だ、心臓が、爆発す、る。「俺と少女漫画みたいなしねェか?」


「(せんぱい、意外と気障?)えと、それは、」「期待しても、いいんですか・・・?」
恐る恐る先輩を見上げると少し意地悪そうににっこりと笑っていた。


笑 う 放 課 後