朝から降りだしそうだった気まぐれな空模様はお昼休みを境に突如バケツをひっくり返したような大雨となった。お天気お姉さんは夕立だって言っていたけれども夕方前から降り始めている夕立(仮)が夕方までに止むなんてありえないだろうと教室の窓から外を見て心の中で悪態をついたのはお昼休み、ナミちゃんたちと一緒にお昼ご飯という名前の戦争を繰り広げていたときだった。いつもなら他のクラスのビビちゃんやサンジくんたちとも一緒に屋上で食べていたのに急な雨のせいで自分達のグループのほかのクラスのみんなも集まったためにいつも以上に窮屈な教室で食べることになったあげく、購買部でパンを買えなかったルフィくんがみんなのお弁当を食べようとしている行動からお弁当を死守することに精一杯で食べた気がしなかった。結局ナミちゃんの拳骨を食らって大人しくしていたけれど。

6時間目の授業が終わっても尚降り止まない雨を目の前にため息をつく。夕立に備えて持ってきた長傘があるとは言えこの大雨では少なからず鞄や靴下に被害が出るだろう。コンクリートにはじく雨粒の勢いに足をすくませる。
ふと後ろから名前を呼ばれ振り返ると見知った先輩が居た。「トラファルガーせんぱい。」傘を広げようとしていた手を下げ先輩が居る方へと足を運ぶ。「ローでいいって言ってるだろ。」先輩の名前なんて恥ずかしくて呼べません、とは言えるわけもなく(それじゃただの告白じゃないか)話題を逸らすきっかけを作るために今日も相変わらずの目の下に出来た隈と先輩の左手にある分厚い本を見比べた。「先輩、今日はまたどんなわけのわかんない本読んでて寝不足だったんですか?」あたしがそういうと先輩は無言で左手に持った分厚い本の角で頭をガツンとやられてしまった。あいたたた。

「せんぱい、どうしてこんなところでボーッとしてたんですか?」「傘持ってねェ」やだなー先輩。今日お天気予報のお姉さんが夕立降るって言ってたじゃないですかー、とヘラヘラとしている目の前の後輩につい先ほども食らわせた本の角を頭に向けて振り下ろした。天気予報なんて見てるわけもなく見事に夕立に降られている自分は確かにの言う様に間抜けとしかいい様がなかった。「お前傘持ってるなら入れろ。」どうせ途中まで同じじゃねェか、と言うとはそんなに大きな傘じゃないし安物だからこの大雨に耐えられるのかわからないと言った。ちなみにコイツは過去二度ビニール傘を大雨で雨漏りさせて再起不能にさせているのを俺も知っていたがそんなことどうでもよかった雨で本を濡らすわけにもいかないし、何より俺にとってはこんな都合のいいことなんざ滅多にないと思った。隣には文句をいいながらも傘を広げようとしているが其処に、居た。

二度も先輩からの制裁を受けて(でも何もしてないのに制裁っておかしいよな)悪態をつきながらも先ほど開けるタイミングをなくしてしまっていたジャンプ傘にもう一度手を伸ばす。ばんっと音を立てて広がった水玉模様のジャンプ傘は学校の近くの雑貨屋で315円でお買い求めできる優れものである。(しかしすぐに破れるのでその場しのぎでしかない)色は全部で5種類。お勧めは赤色。だけど最近はよく黄色を使っている。それもこれも後輩を使ってこの大雨を凌ごうとしている目の前の先輩のせいなんだけれども。今日も傘の水玉模様は黄色、先輩の校則違反であるカッターシャツの上から着ているパーカーも黄色(と、黒)
ひょい、とあたしの手にあった傘を奪うと先輩は何も言わずに足を進め始めた。「ちょ、せんぱい!待ってよ」てかそれあたしの傘なんだけど。我が物顔で傘を持つ先輩に追いつくと先輩は「お前が持ってたら俺が入れねェだろ。」と言った。こんな俺様な性格なのになんであんなにモテるのか、誰か教えてくれ。切実に。そしてなんで自分も先輩に惚れたのか考えろ。
「せんぱい、こんなに大雨の日って傘凄く重たくなりません?」降ってくる水の量が多いから手がフラフラとかしたりしてそのせいで余計なところが濡れたりとか。「んなことねェよ、お前だけだろ。」とちらりとこっちを向いた先輩はまた目線を少し先にある横断歩道の方へと向けた。「そんなことありますって。」「ねェ。」「あります。」「お前が腕の力弱いだけだろ。」じゃあ、男と女の体格の差ですよ。少し冗談っぽくふくれっ面をしながら横断歩道の前で立ち止まったスキにせんぱいをちらりと見る。正直こんなに近くに居れるなんて思っても居なかった。ルフィくんたちと仲良くなってなかったら先輩と知り合うこともなかっただろうし、きっと先輩を好きになることもなかっただろう。たまに何を考えているのかわかんないけれども見た目によらず医大目指してるところとか、人知れず努力してるところとか、先輩と知り合いにならなかったら知らないことを沢山知っていったこの一年をふと振り返った。

決して大きくはない傘に二人で入っていれば片方の肩が濡れるのは誰もが一度は経験にしたことがあるものだと思うが、全然濡れていない自分の左肩に違和感を持ち傘を見上げると先輩はあたしの方に傘を斜めに向けていた。「せんぱい、傘まっすぐにしてくださいよ。」「風邪ひいたりしたら先輩に何言われるかわからないじゃないですか」そう言うと先輩はため息をついた後青信号に変わった横断歩道へと一歩を進めた。
「女が身体冷やすんじゃねェよ、バカが。」せんぱいの一言は先輩にとっては何気ない一言だったのだと思うけれども、あたしには十分期待を持たせてしまう。先輩の一言にフリーズしたあたしは進みだした先輩を余所に大雨に全身濡れる羽目になるのだけれども。


レイニイデイズ プソティー

「お前バカだろ。」と悪態をつきながらも先輩は濡れたあたしにお気に入りのパーカーを貸してくれた。先輩は、あたしをドキドキさせる名人だと思う。細身の先輩のパーカーはやっぱりあたしには大きくて、男と女の体格の差を身を沁みて感じた。(先輩の香水のにおいがするー)(殴るぞ)


(カッターシャツが透けてるなんて言えるわけねェだろうが。)