業火の中、女はただその背中を見て泣き叫んだ。
何故あの女なのか、と。

ばさりと外套を翻して振り返る背中は冷たく見下してこう言った。
少なくとも権力と欲に塗れた女は必要ない、と。

もう少し頭の良い女だと思っていたのは買い被りすぎたと背中の主は思った。
この国の王は頭の回転が速く、柔軟な対応をしていたので問題ないと考えて居たが、所詮は天華の辺境に住まう野蛮人か。

同じ人間であろうとも、同じ考えを持つと言う事の難しさ。
世界を一つにすると言う事において、天華なぞちっぽけでその中ですら相容れる事が出来ないのはなんとも虚しい。

火の海に消える、かの国を一瞥すると紅炎は絨毯を祖国へと進ませた。


(練 紅炎)



「お久しぶりです、李殿。」
「お久しぶりです。」

深々と一礼をする従妹に私は内心動揺する。
彼女は私より若いと言えども、李本家の長女であり身分の上でも上司にあたる。
深く一礼をされるような事は年功序列以外にあるはずがないのだが、彼女は国の「礼」に倣っているのだ。

わかっていても、彼女の隙の無い完璧な素行に少し眉を顰めた。

従妹である李は、同じく従弟である李青秀と共に第一皇子の側近として日々我が国へ大きく貢献している。
青秀と言えば、第一皇子の所持するジンの眷族として武を持って精している、我が一族に多く居る出世人の一人である。特に青秀は本家の人間だけあってか、より濃く一族の武術に秀でた血を継いでいるのだろう。それはもう一人の従弟である李青舜も同様であるが。

しかしながら目の前に居る従妹は女でありながら官吏試験を実力で突破した上に、智によって第一皇子に選ばれた一族においても異例の出世人であった。
女で我が国の政をつかさどる事は勿論多くの敵を有する事になる。特に同じ智を武器に働く文官や、第一皇子の後宮関係からの僻みは計り知れないだろう。
それを知っていながらも淡々と自らの使命を果たす従妹に僻みの連鎖は途絶える事は無い。

何を取っても完璧、その言葉が似合う「出来た」従妹と久しぶりの再会後、軽い世間話をしてその場を去る。
いくら同じ城内を出仕しているとは言え、第一皇子の側近としがない武官では行動範囲が異なりすぎる。

結局のところ、私も本家の娘であり、第一皇子に仕える彼女に嫉妬している一人に過ぎないのだ。


(とある李分家の従兄)



「こんにちは、鳴鳳殿。」
殿ではございませんか!」

「今日は紅覇様とご一緒ではないのですね。」
「は、はい。先ほど禁城へ戻ったばかりでして…」
「紅覇様は紅炎様に此度の遠征のご報告をされております。」

「そうでしたか。だからこちらに居らしたのですね。遠路お疲れ様です。」
「紅炎様は私室に居られますので、ご案内いたします。」

「あ、ありがとうございます!」

騒、


おお、李と関鳴鳳とは…
どちらも異端の身、気が合うのやら…

紅炎様も何故あのような娘を…
それを言うなら第三皇子は異形集団と呼ばれる程…

どちらも皇子が居なければ今頃…
全くだ。この神聖なる禁城に何ゆえあのような者どもがうろついているのか…


騒、

「…」
「気にしてはいけません。思う壺です。」

「それに、」
「わたくしは、口先だけの腰巾着より、鳴鳳殿の方が何十倍も煌に貢献されていると思います。」
「私のような文官が言うのもなんですが、正しく人道を通すとはただ学問を修めた人間と言う訳ではなく、主に忠義を尽くし、一族を敬い、誠実で虚言を言わぬ事だと言います。」
「つまりわたくしが知る限りでは、今この場においてもっとも人道を通しているのは鳴鳳殿であると考えます。」

「もっと、胸を張って歩いても良いと思います。」

閑、


、殿…」
「とはいえ…私が側に居るせいで鳴鳳殿にも…要らぬとばっちりを…」

「い、いえ!!そんな事ありません!」
「私は卑しい一族の出です。後ろ指を差されるのはもう慣れております。」
「紅炎様の従者である殿のお側に、私なんかが居たせいで余計に騒ぎ立ててしまったのではないかと…」

「それに、先ほどの言葉…とてもうれしかったです。」
「鳴鳳殿…」


と鳴鳳?何してんのぉ?」


「紅覇様。ご報告は終われたのですか?」
「んー。」
「紅覇様をお迎えに来られた鳴鳳殿をお連れ致しました。」
「ありがとー。流石気が聞くねぇ〜。」

「でもは何か別の用があったんじゃないのー?」
「いえ、わたくしも紅炎様にお渡しする書簡を用意しておりましたので、問題ございません。」
「では紅覇様、鳴鳳殿。失礼致します。」


(関 鳴鳳)



↓おまけ

「鳴鳳。」
「は、はい。紅覇様。」
「前にはやく家族を作って養えって言ったけど、はやめときなよぉ?」
「…しょ、承知しております…」
「…お前もつくづく馬鹿だねぇ〜。」





※以下ちょっとした考察

ヒロインと鳴鳳は恋愛<我が君って言う割と似たもの同士のイメージ。
追放されていた事もあって、鳴鳳は恋愛以前に人に優しくされる事をあんまり知らないんじゃないかな、と。
だから鳴鳳の行動は100パーセント恋愛ではないけど、少しくらいはやっぱり混じってて、それを目ざとく紅覇ちゃんは気付いたって言う。

紅覇ちゃんの側近はみんな紅覇ちゃんLOVEやからきっとヒロインと気が合うと思う!
ってメモがあるのに未だに純・仁・麗が出せてないからはやく出したいですね〜…