DIARY//SS 「いいよねえ、シスターは。」 「何がでしょうか?」 「耕ちゃんだよ、耕ちゃん。」 彼の名前が出るだけで真っ赤になる彼女は初恋をした小学生のようだった(でもあながち間違いでもない) 耕ちゃんこと畑中耕作はプロのボクサーで、向田ジムに所属している。 うっかり元カレに連れてこられたボクシングの試合をみて私もはまってしまったわけである。それが畑中耕作の新人戦だった。 あのKOでのした彼の姿は私にはとてもキラキラして見えていて、それ以来耕ちゃんの試合は全部見に行っていた。 ガラガラの場内、真剣に応援している人も居ない中ひとり本気になって応援していた私を見た向田ジムの皆さんが話しかけてくれたおかげで気づけば向田ジムの試合には毎回行く公認の畑中耕作(と向田ジム)のファンになりつつあった。 その時間の中で減量がとっても苦手で食べるのが大好きだったり、ひとを思わずかばってしまうほど実は優しかったり、バイト先のカツがすごく好きだったり、耕ちゃんのリングの上だけじゃない一面がひとつ、ふたつ、みっつ。知っていくうちに気づけば私は耕ちゃんのファンではなく、耕ちゃんをひとりのひととして好きになっていた。 そんな中現れた聖母は「今までの時間はなかったのよ」と言わんばかりに全てを持ち去っていった。知ってるよ。耕ちゃんはいつでも私を女として見てくれていなかったこと。ボクシングに目を輝かせる女を女と見ろって言う方が無理なのかもしれないけど。 少しぐらい気にして欲しかった、なあ。 耕ちゃんの名前を出した後シスターはすぐに耕ちゃんを意識してしまったのか教会から出て行った。誰も祈って居ない閑散とした教会でひとり。 シスターのことも嫌いじゃないし、どっちかっていうとお似合いだとは思ってるんだよ、でも・・・ 「・・・報われないなー。」 ああ、本当に、報われない。 (一ポンドの福音/畑中 耕作) 今日ひったくりにあった。思わずその場でぎゃあっと叫んだら知らないお兄さんが助けてくれて、カバンを取り返してくれた。 ひったくりをつかまえた時にお兄さんの一つにまとめた髪の毛が後ろにあった街灯のひかりでキラキラって光って、世界がスローモーションで動いているように見えた。 ああ、世界ってこんな綺麗なものってあるんだな。 お兄さんがカバンを取り返してくれるまでの、きっと数秒にしか満たない時間だったと思うんだけどすごく世界が輝いて見えた。夜なのに。 カバンを取り返してくれてありがとうございました。 お兄さんにそう伝えると「いや・・・、」とだけ言って帽子を深くかぶりなおした。 日を改めてお礼がしたいんですけど、いつが空いてますか? 気にしてないのでいいです、と言うお兄さんを逃してなるかといわんばかりにお兄さんの腕を掴んで私は言った。いつものカバンの中身なら所詮わかりきったぐらいのお金しかはいってなかったが、今日に限ってお金を銀行から下ろしてきたばっかりだったのだ。どうせ今からコンビニに行って支払いに消えるところだったんですけどね。 私の(チケット代振込みの)恩人なんですから!お礼させてください。 とはいえお茶代ぐらいとかしか出せないですけど・・・ お兄さんは腕を掴んでいた私の手をそっと離し、私をじっと見下ろす。怒られたりするのかな、ぎゅっと目をつぶっていた私にお兄さんは「そのお気持ちだけで十分です。」と言った。目をゆっくりと開けるとお兄さんはまっすぐな瞳をこちらに向けて、微笑んでいる。 じゃあ、せめてお名前を、教えてくださいっ! 一瞬お兄さんの笑顔に見惚れて反応に遅れた私はまくし立てて話す。 「ベム、です。」お兄さんは一瞬驚いたのか私にヒいたのかわからないけど目を丸くして、帽子に手をあてた。けれどすぐにまた口元を緩ませて名前らしきものを話してくれた。 部武さん、ですか? いえ、ベムです。どうやら発音にこだわりがあるらしい。お兄さん、いやベムさんが言った。 ではベムさん、この町に住んでおられるならまた必ずお逢いできるでしょう、その時は必ずお礼させてくださいね。 私がそういえばベムさんは帽子を深く被りなおし、会釈をして去っていった。ベムさん。最初は整った顔がキラキラとしていて作り物のように思ったけれども、間違いなく優しい心を持った素敵な人間なんだろう。 今日ひったくりににあった。カバンを取られかけたけれどもある一人のお兄さんによって未遂に終わった。 月も出て居ない夜なのに、今日はすごく、自分が生きている世界が輝いて見えた。 それもある一人のお兄さんによって。 (妖怪人間ベム/ベム)※短編の前ネタ 「しゅーじくんっ!名演技ありがとうだーっちゃ!」ちゃんと結婚するはずだった男の人はさっき全力で叫んでいた友達らしきひとに話しかけに行っていた。それを見ていたおばちゃんが男の人のところに寄って、「草野さん、ありがとうございました。」とお礼を言っていた。私達下宿屋メンバーはなんのことやらさっぱりわからないまま、お互い顔を見合わせながら頭にはてなマークを浮かべていると「今回のことはね、草野さんに協力してもらってウソのお見合いをして恭平とにくっついてもらおうと思って計画したのよ。」ほほほほと笑うおばちゃんは続けて「幸せになるから受け取ったんですから、草野さんにも幸せは舞い込んでくるはずです。」と言ってちゃんが投げたブーケをその人に手渡した。その人は優しい表情でブーケを見ていたけれどもすぐに元の飄々とした姿に戻って全力で叫んでいたひととのぶたと呼ばれている女のひとと一緒に教会から消えていった。 こうして、高野さんとちゃんをひっつけよう大作戦のために盛大に行われたウソの結婚式は幕を閉じたのでした。。。 (ヤマトナデシコ七変化/高野恭平)※短編のおまけ 陶器と陶器のぶつかる音だけが大きく反響するかのように聞こえた。 ちまたで噂の宇宙海賊とやら。 ゴウンゴウンと大きな揺れと共に巨大化した怪獣とロボットの戦い。 「今日も平和ね。」もう一度ソーサーからカップを離した。 目の前で眉を下げてわたしを見つめる二人が此処に居てくれることがわたしにとっての平和。もうあの頃のようにみんなの帰りを待たなくていい。 レジェンド大戦だの、34のスーパー戦隊だの、はっきり言ってわたしにはよくわからない。 でもひとつわかっているのは、彼らがもうあのジャケットを着ることはないと言うこと。 目の前に居る兄妹は、32番目のスーパー戦隊だった。 この世界の人間ではないモノたちを相棒として、ガイアークと呼ばれる公害を引き起こす連中と戦っていた。 その次のスーパー戦隊と変わるまで、彼らはずっとがむしゃらに戦っていたのだ。 「・・・気になるんでしょう?」 カップが唇に触れるか触れないかで止めて紅茶に向けられていた目を静かに閉じる。 ゴウン、地面が揺れる。 わたしはね、もうあなた達が苦しい思いをしなくて済むならそれでいい。地球なんて規模の大きいものに対してどうして7人とこの世界のモノじゃない彼らが挑まなければいけないのかとずっと思っていた。 でもそれはきっと今戦っている宇宙海賊たちだってそう。どうして彼らが立ち向かわなければいけないの。 本当は地球なんかより美羽や大翔のほうが大切。それは大翔のあとのスーパー戦隊のひとたちも、そのあとも、そのまえも、きっと身近に居た人間は少なからずそう思っていたに違いない。 そ、とわたしの頬に手が触れる。大翔の手だった。 目を開けるとふたりともわたしを見て、悲しそうにしている。 「何故泣いている。」そう言われて初めて気づく自分の涙に、すこし動揺した。 今までだって何度も大翔や美羽たちが無事であることに対して泣いたことはあった。けれども絶対に何故彼らじゃなければいけなかったのか、は口には出さなかったしそのことで目の前で泣いたことなんてなかった。 「大翔と美羽が、傷つくのは、もう、いやだなあ、って。」 地球なんかより、二人が帰ってこないほうが私には苦しいの。 薄情者でごめんね、と言えば兄妹はまた悲しそうに笑った。 「お前を悲しませていたのが俺達なのに、どうしてを責めることが出来るんだ。」 (炎神戦隊ゴーオンジャー/須塔兄妹) 「左様なら。」 「嫌だ。」 「でも私は離れたい。」 「断る。」 「侑斗はいつか愛理さんを選ぶもの。」 「だからなんでそうなるんだよ。」 「わかるもの。侑斗のことだから。」 「それに私は忘れちゃうかもしれない。」 「特異点じゃないから、忘れちゃうかもしれない。」 「…」 「侑斗が悲しいかおをするのは見たくない。」 「一度未来を失った侑斗だからこそ、今度は幸せになってほしいの。」 「…」 「だからさようならをしましょう。」 「いやだ。」 「お前がどう思っていようが俺はお前が好きだ。」 「あの人と繋がらない未来を生きる俺にはお前が必要だ。」 「うそつき。」 「嘘じゃない。」 「それでもコハナちゃんをかばったり、愛理さんを助けたりしてるじゃない。」 「私、そんな些細なことからでも不安になる面倒くさい奴なの。」 「侑斗の負担にしかならないの。」 「だから、侑斗を、これ以上縛りたくない。」 「だから、私と左様なら、しましょう。」 目を合わせずに彼の横を通り過ぎようとしたのに、気付けば彼の腕の中に居た。 後ろから感じる暖かさは少し震えていて、私の決意は溶かされてしまいそう。 「そんな面倒くさいお前が好きだ。」 「お前が俺を忘れたとしても、何度でもお前とまた初対面から始める。」 「俺がお前を忘れない限り、俺の未来にはお前が必要だ。」 ぽたり。 ぽたり。 唇をかみ締めて声が出るのをこらえる。 震えているのは私なのか、侑斗なのか。 あふれる涙が私を抱きしめる侑斗の腕にも落ちる。 「絶対に、私を選んだことを後悔するよ…」 「私が忘れたら、侑斗はまた傷つくよ?」 「ああ。」 「愛理さんみたいに優しくないし、大人じゃないし、嫉妬深いよ?」 「ああ。」 「…っ ゆう、と。」 「。」 「…私に、」 「侑斗の未来を下さい。」 (仮面ライダー電王/桜井侑斗) ねぇ?こうたろ? きいてもいい? なんだよ、 こうたろの時間でのクリスマスって、今と変わらない? デンライナーの中、いつぞやに助けた特異点のが食堂車のツリーに飾りをつけながら俺に問う。 彼女の言う「今」はきっとの時間の話だろう。 の時間はじいちゃんの時間からほんの少し先の時間。 じいちゃんの時間で起きた変動によってポツリと取り残された特異点だった。 まあ、それなりには。 それなりってどういうことよー いや、俺の家はじいちゃんの誕生日が近かったから クリスマスの日に一緒に祝ってたんだ。 ああ、なるほど、 こうたろの家ならではだねー プレゼントボックスの形をしたオーナメントをツリーにひっかけるとは俺の方を見てにこりと笑う(その笑い方すきだ、) じゃあ今年はおじいさんとは一緒じゃないの?はまたオーナメントに目を向けてツリーの飾り付けを続ける。 まさか俺の向かい側に居る子供がじいちゃんとは思いもしないは「今年のこうたろのクリスマスは私がひとり占めできるかなあ。」と鼻歌で歌っていた。 本当に、ヘンなやつ。ヘンで、かわいい、よくわかんないやつだ。 少し頬が熱くなるのを感じながら、鼻歌まじりにツリーを飾りつけしているを頬杖をつきながら見つめる。 楽しそうにリズムを刻みながら一人ツリーを飾るに自然と頬が緩む。 そんな俺を見て向かい側に座るじいちゃんと俺の隣に居るテディがほほえましそうに見ていたのはまた別の話。 (ごめん、じいちゃん。今年はクリスマスは予定が入りそうだ。) ちゃんと26日にはお祝いするから、25日はに譲ってくれ。 席から立ち上がると、天辺の星に手が届かなくて背伸びするの手から星を奪い、そっと天辺に乗せる。 俺を見上げてありがとうと微笑むに俺はまた頬が緩むのを感じた。 (仮面ライダー電王/野上幸太郎) デンライナーから降りて家に帰るとばあちゃんが「おかえりなさい、幸太郎。」と出迎えてくれた。 手には豪華な料理が湯気をたてている。昨日と一昨日は簡素だった料理も今日は特別だ。ばあちゃんは挨拶を返した俺を見てにこりと笑うとまたリビングに消えて行った。 食欲をそそるにおいにつられて俺とテディもリビングへと向かう。 テディが「流石だな、相変わらず料理が上手い。」とテーブルに並んだ料理を見て言った。ついさっきまでデンライナーで時間を飛び回っていたからか、少し時間感覚がおかしいらしい。俺も思わずばあちゃん料理うまいな、といつも座る椅子に腰掛けながら思った。(デンライナーの食堂車のせいとは言わないことにする) ふふふ、テディそんな褒めてもなんにも出ないわよ。と笑うばあちゃんも、隣に居るじいちゃんもいつかの写真でみた頃よりも幼い姿をしている。 この前の時間変動によってじいちゃんと同様にばあちゃんも子供になってしまったが、野上家では騒がれることもなく「あー、変動しちゃった?」ぐらいで済まされた。 ばあちゃんが作った豪華な料理も一瞬でなくなり、次に今日のメインコーナーであるケーキがテーブルに置かれた。 12月26日。今日はじいちゃんの誕生日。 我が家はいつでもクリスマスイブとクリスマスはあまり豪華なパーティーは行われないがその分26日は盛大なパーティーとなる。 ケーキは母ちゃんの手作りらしい。少し崩れている。(やっぱりばあちゃんは上手い。) ローソクに火をつけると歌われるバースデーソング。 ローソクの数とじいちゃんの容姿があわなくてなんだか笑える。 消えたローソクの煙が暗闇に浮かび、電気がつくとばあちゃんがじいちゃんの手をとっておめでとう、りょうちゃん、とプレゼントを渡していた。 それに続いて俺もじいちゃんに誕生日おめでとう、とテディ、モモタロスたちと選んだプレゼントを渡した。 家族からプレゼントを受け取ったじいちゃんとばあちゃんはいくつになってもりょうちゃん、ちゃんと呼び合う。正直聞いてるこっちが照れる。 笑顔でお互いを見合う二人を見ていると、ふとデンライナーに乗っている客室乗務員が頭をよぎった。 (あー、俺も相当末期だな、こんなときまで考えてるなんて、な。) ついさっきまで乗っていたはずなのに。ちらりと時計をみて次にデンライナーに乗れる時間を確認した。 あの危機感のないふわふわした、今にも品物が零れ落ちそうなカートをひくアイツを思い浮かべ、椅子の背もたれに深くもたれて一息つく。テディにはどうした?と聞かれるが答えることもなく、目の前に座る子供の姿になってもなお仲睦まじいじいちゃんとばあちゃんをぼーっと見つめる。 後数分したらリビングから自室に繋がる扉を開けようとズボンのポケットに入ったパスにそっと触れて目を閉じた。 (仮面ライダー電王/野上良太郎・幸太郎)※幸太郎のお相手はレッツゴーオールライダーネタと同じ 「ねえ、」 「何?」 「俺のこと嫌わないで?」 「どうしたの?」 「直くん?」 私の手を愛しそうに撫でる彼は、諸刃の剣だ。 とても社交的で、とても人懐っこくて、 とても純粋で、とても脆い。 「は俺じゃない。でも、」 「俺の中に居なきゃ駄目だから。」 図書館の片隅、 カーテンを揺らす心地の良い風、 キラキラした昼過ぎの木漏れ日、 壁にもたれて三角座りをしている私に向き合って中腰で私の顔を覗き込む。 彼は、泣きそうな表情で私の手を握りながら見上げた。 さっき噛まれた指は熱を持っていて。 彼が指を絡ませようと触れれば私は思わず顔が歪めた。 彼は純粋すぎて、たまに、周りが見えなくなる。 感情が爆発すると、小さな子供のようになる。 彼は諸刃の剣だ。 そんな彼が折れないよう、私は彼の頭をそっと撫でた。 (俺俺/ナオ) |