DIARY//SS




/0531/

季節外れになりつつあるふわふわの雪が降っている夜道を私とまた子ちゃんは傘を差しながら歩いている。久しぶりに買い物をしに行くと思わずいろいろ見て回ってしまい結局夕方までには撤収するつもりだったのにすっかり夜になってしまった。
「晋助様に怒られるッスよ」と慌てているまた子ちゃんに、どうせ私たちが戻っても当の本人は居ないよと諭す。事実今までどれだけ遅くなっても晋助のほうが必ず遅かった。何処をふらふらしているのかなんて、わからないけれど。
あんな薄着で今日も彼は一人ふらふらーっと私とまた子ちゃんが出かけようと準備をしていたときに出かけていった。
また子ちゃんが喋っているの耳で流しながら聞いていると、ふと視界が悪い傘の向こうに目についた見たことのある色のきつい派手な着物。まだ春というには寒いこの時期に足袋も履かずに履かれている草鞋。それらは並び立つ家屋と家屋の隙間に消えた。
「あ。」思わず声が出てしまい、立ち止まった。(あれは、)足元しか見えなかったとは言え、あれを見間違えるほど私も馬鹿ではない。急に立ち止まった私に、また子ちゃんは「どうしたッスか?」と声をかけてくれた。

どうしよう。私はあれを追いかけるべきか。
追いかけるとしてなんのために追いかけるのか。
追いかけるとしてもまた子ちゃんを連れるか否か。
追いかけないとして後悔しないと言える自信もない。
(彼はいついなくなるともおかしくないのだから)

あの深い紅色に映える山吹色が脳裏から離れてくれない。

しばしの心の葛藤の後、私の脳は彼を追いかけることを決断した。「ごめんね、また子ちゃん!」「卵が少ないこと思い出したからちょっと買いに行ってくる!」先に帰ってていいから!と、走り出したのは家屋と家屋の間をすり抜けたあの派手な色の消えた先。また子ちゃんの声が後ろに聞こえたけれど、足は止めなかった。ちなみにこっちの道にスーパーはない。コンビニはあるかもしれないけれど。

曲がり角と言うにはあまりに狭い家屋と家屋の隙間のような路地を曲がると、銀世界の中に色が存在していた。息が整わないうちに色、晋助に近づこうとすると晋助は真っ暗で、ひたすら雪を落としてくる空を傘も差さずに見上げたまま私の名前を呼んだ。名前を呼ぶうちにも晋助の体温で溶けていく雪のせいで着物が色を変えていく。もう一度名前を呼ばれた。晋助との距離は傘の直径よりも短い。何をしていたのか、なんで傘を持ってないのか、なんて野暮なことは聞かない。
ただ遠くを見つめている晋助にあたしは冷えるよ、と言う。すると晋助はククッと笑った後、踵を返すと同時に私から傘を取り上げて、帰るぞと言った。「ねえ、卵買って帰りたいからどっか寄って!」「こんな時間に店が開いてるわけないだろうか。」ふう、と吐かれた紫煙はただふわふわと降り続く雪と共に消えた。


(銀魂/高杉晋助)



/0607/

特に用事もなく街をぶらぶらと歩いていると、かぶき町の人のご近所さんや、朝帰りのキャバ嬢に「今日も朝の散歩?」なんて話しかけられて、開店準備をしているお店のおじさん、おばさんなんかには野菜とか差し入れまでもらってしまう。
早起きは三文の徳とはまさにこれなんだと思う。あと継続は力なり・・・は若干違うか。とにかく毎日自分がしている行為によってまさかこんなに万事屋の家計を支えているとは思わなかった。(あ、今日は大根の端っこまでおまけでもらってる・・・)(お昼はこれ使おう)さて、銀ちゃんたちは起きたのか。どうせまたあたしが起こさないと起きないんだろうな、あのでっかい銀髪のとちっちゃいチャイナ娘は。

携帯の時計は午前8時2分前。あと2分後には大きな音で先ほど通った公園の時計塔はリンゴロと8時になることを主張する。いつもと同じくらいの時間に家を出て同じぐらいの時間に朝のかぶき町一周を終えて家路に着こうとしたとき。後ろからふいに声をかけられて振り返った先には、見知った隊服と違い着流し姿の沖田さんが居た。
「こんな朝から何してるんでィ?」「そういう沖田さんこそ。」しかも着流しだし。「仕事終わってコンビニ行こうと思ってたんでィ。」今日は非番なんでさァ。で、そのままあたしと同じくぶらぶらと散歩していたらしい沖田さんは右手に持っていた大江戸マートの袋を上にあげた。
なんだかそのまま朝から沖田さんがコンビニで買ったモノの中からお団子を渡されて先ほど通った公園で沖田さんとしゃべっていた。時間は8時30分を時計の針は少し過ぎていた。少しずつ小さい子供たちが朝から元気に公園で駆け回り始めてきた。キャイキャイという声に時々目をしかめる。(だったらなんで公園なんかに来たのか。)しばらく無言で二人してお団子を食べていたら沖田さんは立ち上がって、「残りは勝手に食ってくだせェ。なんなら旦那に持って帰ってもよろこぶんじゃねェですかィ?」と、公園にあたしを残して去っていった。

・・・あたしは沖田さんが何を思ってあたしなんかと一緒にお団子朝から食べたんだろうと考えてみたけれども、相変わらず掴み所がない人だな、としか結局結論は出なくて、とっとと自分の今食べている串に刺さっているお団子を一気に口の中に放り込むと、残っていた一串を包み紙に巻いて朝八百屋のおじさんからもらった大根の端っこたちとともにエコバックに詰めて銀ちゃんに持って帰った。

午前10時02分。なんだかんだで一時間ほど公園に居たのと、意外と公園から万事屋までの距離が人通りの多い大通りだったせいもあってなかなか進まず、結局朝方通った時はガラガラだった大通りの人ごみのせいで時間を食って帰るのが遅くなった。(時間的にも朝ごはんじゃなくてお昼ご飯の準備しなきゃ・・・)(なんか万事屋のほう騒がしいなあ・・・いつもの事かもしれないけど)万事屋はもう目の前に見えている。あと少しだというときに聞こえた声。いつも騒がしいけれども今日は一段とうるさい。あ。もう銀ちゃんたち起きてるってことだよね!朝ごはん作ってなかったから暴れてるとか!?のんびり家路につこうとしていたけれども、暴れている銀ちゃんたち(主に神楽ちゃん)を想像し、たった数mの道のりをはしたないといわれるかもしれないけれど着物の裾を少しあげてぽっくりがコロンコロンと音を立てながら走った。(こ、け、る!)

万事屋への階段をコロンコロンとぽっくりが音を鳴らしながら一段、また一段のぼる。あと二段であがりきると思ったそのとき、万事屋の扉が悲鳴に近い音を立てて開いた。銀ちゃんだ。
勢いよく出てきた銀ちゃんに口をあんぐりとさせていると階段を降りようとこちらを向いた銀ちゃんと目があった。必死の形相をしていた銀ちゃんはあたしを見るとあたしの名前を呼びながらこちらに駆け寄ってくる。
どうかしたのだろうかと、先ほどからつんのめりそうになりながら階段を早めにのぼっていたあたしは残り二段をさっきより早めにコロンコロンとのぼると、銀ちゃんの腕にがっちりと肩を掴まれたあたしは銀ちゃんが真剣な顔つきをしていて少し後ずさりそうになったけど銀ちゃんがの腕はそれを許さなかった。
「ど、どうしたの?」と聞くと銀ちゃんは有無を言わせないような低い声で「今まで何処行ってたんだ。」と言った。あれ、あたしいつも朝散歩してるって言ってたよね・・・? 何してたって散歩してたんだけど、と言うと銀ちゃんの眉間の皺は深くなった。「だったらなんでこんなに遅いんだよ。」いつもならもっと早く帰ってきてるだろ、と少し肩を掴んでいる腕に力がこもり、うなるような声が出そうになったけれど痛くて顔をゆがめると銀ちゃんははっと我に帰ったかのように腕の力が抜けた。
すまねぇ、と小さな声で謝る銀ちゃんを見て、あたしは「散歩してたらね、沖田さんに会ったの。それで、お団子を公園で朝から一緒に食べてたら遅くなって・・・」「心配させちゃったならごめんなさい。」そうか、銀ちゃんは心配してくれていたんだ。いつもより2時間ほど帰ってくるのが遅くて。いつもなら9時には叩き起こしてるのに起きたらあたしが居ないからって。(どれだけいい男なんだよ銀ちゃん。)そんな銀ちゃんの気持ちに気づかなかった自分を責めてうつむいていると、ぐいと肩を引き寄せられた。銀ちゃんの華奢なのに力の強い腕があたしの背中に回った。いつもなら銀ちゃんから抱き寄せられたりなんてしないし、体が痛いほど抱きしめられたことなんてない。「ごめんね、銀ちゃん・・・心配かけさせちゃって。」
まったくだ。と腕の力が強くなるとその痛みすら愛されてるんだなって感じていっそこの腕に抱きしめられて死ねたらいいのにと思った。


(帰ってきたアルカ!?)(うぇ、あ、神楽ちゃん!!)(あー!銀ちゃん離れるよろし!!!)(・・・)

沖田さんがくれたお団子あるよ、と銀ちゃんに言うと銀ちゃんは「神楽、捨てておけ。」と万事屋のソファに座っていた銀ちゃんは読んでいたジャンプを閉じてまたムスっとしてしまった。(あのドS野郎わかっててやってやがるからタチ悪ィ。)

(銀魂/坂田銀時)



/0621/

初めて逢ったのは街の中。何気なく歩いていたら後ろから声をかけられて。振り向いた先に、貴女が居ました。ハンカチ、落としましたよ。と微笑んだ貴女の顔が今でも瞼を閉じれば思い出せる。この時にはもう貴女に惹かれていた。
数日経って江戸の郊外にある鬼兵隊の隠れ家している宿に珍しく来客者が来たときに目を疑った。あの人のことを考えすぎて幻覚でも見ているのではないか。立ち尽くした私に貴女は気づいてまた微笑んでくれた。

気になっていたなんて言い訳ができなくなった瞬間。

跳ねる心臓。循環する血液。声が出ない口。動かない身体。

さっきまで普通に呼吸をしていたはずなのにできない。まるで今、この空間が真空になったかのように。敏感に反応し跳ねあがる心臓に気づかないフリをして貴女に話しかけると。

既に貴女が誰かのひとだと言う事を気づかされた。

頬を赤らめて「その人」の名前を出す彼女はとても艶かしかった。また心臓が跳ねた。しかしそれと同時に高揚していた自分が現実に叩き落された気分になった。「その人」の名前は、自分にとってはあまりに重たすぎたから。
何度自分の耳を疑っても彼女から出てきた名前は同じ人の名前でしかなかった。

屋敷の奥から出てきた「その人」を見つけると駆け寄った彼女を振り返って見たら、つい先ほど自分に向けられていた笑みとは違う笑みをその人・・・晋助様に向けていた。
よくやく知った彼女の名前は晋助様の口からぽろぽろとこぼれていき、(出会うのが遅かっただけならよかったのに)と心の中で泣きながら笑顔で貴女の名前を呼び、「自分は来島また子ッス」と名乗った。ちゃんと笑えていただろうか。何も知らない晋助様は上機嫌で彼女の肩を抱いて屋敷の奥に消えた。心臓に鋭利な刃物が突き刺さった気分になった。



(銀魂/来島また子)



/0821/

あたしが外に出ると空が不機嫌になる。憂鬱。

あたしが嫌いなのか。
あたしの気持ちなのか。

とにかく空は急に不機嫌になって、ぽたぽたと泣く。

なんて憂鬱なんだろ。
雨が降るなんて誰も言ってないじゃない。

悪いのはニュースキャスター?
それともあたし?
(嗚呼。鞄の中に入った教科書は湿気でぼわぼわになってしまう。)

それでも傘がないから仕方なく鞄を傘代わりにして走る。

小雨みたいに降ってるのに大粒のしずくのせいで
アスファルトは見る見るうちに影を落とす。

腕に当たる大粒のしずくがどんどん身体を冷やしていく。

季節外れの風邪をひいたばっかりのあたしにはぶりかえしという心配が頭をよぎった。
やだな、また風邪ひくの。めんどくさい。

また憂鬱。

雨が降った日なんていい日になったためしがない。
あ、でもある友達と外に遊びに行くと80パーセント以上の確立で、

大雪か大雨になるけど、その時はそれすらも楽しいけど。

(きっと一人で居る時に雨が降ると雲が雨と一緒に陰鬱を持ってくるんだ。)


小雨で大粒だった雨がいつの間にか並の雨の量で大粒になって、

赤、オレンジ、ピンク。無地、水玉、花柄、透明。
カラフルな傘の花があちらこちらで見られるようになった。
なのにあたしは傘なんて持っていない。

後少しが厳しい。でも後横断歩道渡って角曲がればすぐなのに、
横断歩道を渡った先にあるコンビニで傘買うのはもったいない。

そう思いながら信号待ちをしていたとき。

ふいに雨が降らなくなった。周りは大粒大雨なのに。
何かが雨に当たってはじかれるおと。

うえをみあげれば、ささづかさんが居た。

黒い傘とささづかさん。(と、雨にも負けず煙を出している煙草。)

ささづかさん、と呼ぼうとしたら遮られてささづかさんが心配してくれた。
・・・まあ、刑事さんだもん。市民のことを心配するのは当然なんだけど。

まずたまたま出会えたことがあたしにとってはラッキーなんだけど!

横断歩道が青になるとささづかさんはあたしの手を掴んで早足で渡りきった。
ささづかさんの歩幅についていけないもつれた足はふらふらと腕を軸に地面を蹴る。

ささづかさんが何も言わずに足をぴたりと止まった先の家はあたしの家。

(正確にはあたしがひとりで住んでいるマンションのラウンジ)


鍵。と短く言われて慌ててポケットから出すと
ささづかさんはまた何も言わずに鍵を通してさらに奥へとあたしを引っ張って行く。

3階だからかエレベーターの数字が8階でぴかぴか光ってるのを見て、あきらめたささづかさん(とあたし)は階段をのぼると、
見えてきた自分の部屋になぜか心臓がどきどき。


さっき渡したまんまだった鍵でささづかさんが部屋の扉をあけると、
着替えておいで、とまた短く用件だけ話してあたしを部屋の中に押し込んだ。

(は、はやく着替えてお礼言わないと・・・ささづかさんのことだからもしかしたら帰っちゃうかも・・・)

どたばたとクローゼットまでの短い廊下をかけぬけてがさがさとTシャツとジーパンを探す。
本当はもっとささづかさんの前ではおしゃれをしていたいけれども。
すぽん、と首を通して、腕を通して。
ささづかさんにお礼言わなくちゃ、とクローゼットから目を移動させたら、

ちょうど窓からきらきらに光りながらぽたぽたと落ちるしずくと
青くなった空にかかる虹が見えた。

なんだかうれしくなって部屋の扉を勢いよく開けてささづかさんを部屋に呼んで、
虹を見てもらった。


「あたしが外に出ると、雨ってすぐ降ってくるんですよ。
今日も雨なんて予報聞いてなかったのにいきなり降ってくるし。
しかもあたしが家に戻ると必ず止むんですよ。ほんっとありえない。

だけど、今日はささづかさんと虹がみれたから、たまにはいいなあって思いました。」


いろいろありがとうございました、と言うとささづかさんは風邪引くなよ、と
濡れたあたしの髪の毛を大きな手で梳いてくれた。

(今日だけは憂鬱なんて言ったの撤回しよ。)ささづかさんにもあえたし


(魔人探偵脳噛ネウロ/笹塚衛士)



/1217/

目が覚めたら知らないところに立っていた。其処はまるで図書館のように本が沢山並んでいるのだけれど、なんていうか壁みたいなのが一切なくて何処が前で何処が後ろなのか、果てはないのか、上下の関係があるのか、まったくわからない、次元を超えたような場所だった。(もっとも、次元なんて超えた事ないから憶測に過ぎないのだけれども) 本棚に沿って歩いていると見た事のある背表紙が目に付いた。中原中也の詩集。中原中也全詩集と書かれた背表紙を手に取ると本を開けることなくしばらく表紙を見つめていた。若くして亡くなってあまり作品はないけれども何処か惹かれてしまう中原中也の世界に浸りたかったのだ。ほんの少しの間表紙をあけずに撫でて何個かの詩を浮かべてはまた別の詩を浮かべ、また別の詩をと繰り返していると突然声が降ってきた。見上げると其処には私より少し年下か、同い年ぐらいの男の子が立っていた。驚いて一歩下がるとよほど自分でも思ってもいないぐらい驚いていたのか詩集を落としてしまった。(私の聖書なのに・・・後で崇めてからお清めしなきゃ。地面に落とすなんてなんとまあ罰当たりな!)慌てて拾ってもう一度男の子を見つめた。片方の髪の毛を目玉クリップで留めてるようで、最近そんな髪型が流行っているのだろうかとまじまじと彼の髪の毛を見ていると、「君はどうしてこんなところに居るんだい?」と私が想像していた声よりワントーンほど低めの声が聞こえた。どうしてって言われても目が覚めたら此処に居たとしか言いようがない。だからそのままを彼に話すと、「君は目が覚めたわけじゃない。此処はいわば精神世界なのさ。」なんて小難しい事を話し出した。でも何かきっかけがないと入れないらしいこの世界、どうして私は来れたのか。まったく予想も想像もつかない。決して頭が特別に良い訳ではない(常に並ぐらいしか点数なんて取れてない)私は頭にはてなマークを沢山浮かべて居ると、男の子はずいと顔を近づけて興味深いとつぶやいた。「僕と接触した事のない人間が此処に来られるのは実に興味深いよ。で、君名前は?」「おっと、名前を聞くときは名乗るのが礼儀だね。僕はフィリップ。もう一度聞きなおすよ。君の名前は?」先ほどまで此処まで口が回る子だとは思っても居なかった私は一瞬ひるんだけれどもすぐに名乗った。

それが彼と私の最初の出会いだった。


(仮面ライダーW/フィリップ)