DIARY//SS /0115/ 「ほら!みなもとさん!」僕の手をぐいぐいと引っ張って彼女は楽しそうにはしゃいでいる。 こうしていればいつもより数段幼く見える。チルドレンたちと共に行動をするようになってから彼女ともよく会うことが増えて、今もこうやって一緒に居る。 今年の初雪は今日らしいです。 と嬉しそうに彼女が僕に言ったのはついさっきのことなのに、随分前に感じる。それぐらい今一分一秒が濃厚に過ぎて行く。むしろ時間なんて止まってしまえばいいのにとおもうほどで。 今日はたまたまチルドレンたちも居なくて、バベルで賢木の手伝いやらをしていたときに彼女に遭遇して、今に至るわけなのだが。 毎年初雪なんて特に気にしていなかったけれど、彼女がとても楽しそうに話していたので一緒に見れたらいいな、なんておもっていたけれども。 バベルの玄関を出るとすぐ降り始めるとは思っても居なくて。ふ、と消えた雪を見て彼女はとてもうれしそうに笑っていた。 (たまにはこうやって二人で居るのも悪くはない) たまに二人きりになったときに見せる幼い彼女が、あまりにも魅力的だったから。いつものように大人びて見える彼女から時々見える幼さぐらいが自分にはちょうどいい、と思った。 この気持ちの名前なんてまだ知らなくてもいい、と思えるほどの心地のよさに今は身をゆだねることにした。 (あ!皆本さん!)(皆本はんのフケツー!) (ご、誤解だ・・・)(てんめえ、皆本ォォォォ!!!!羨ましいことしてんじゃねえよ!!)(薫・・・そっちなん?) (絶対可憐チルドレン/皆本光一) /0119/ 外では初雪が降っているというのにあたしといえば・・・最近ほとんど寝てなくてその上毎日忙しくて、あわあわしていたら、風邪をひいてしまい、今はベッドの中。かれこれもう3日ぐらいベッドの中という抜け出せない迷路にはまってしまっている。いや、むしろ迷路は風邪かもしれないけども。・・・ああああ、頭使ったらぐらぐらするよ。 そんなときにインターフォンが鳴って、フラフラのままドアを開くとそこにはいつもは白衣を着ているイメージしかない賢木先生が居た。 フラフラなあたしを見るなり先生はあたしを抱えてベッドに放り投げた。少し重たい羽毛布団の重みを感じた後、先生が「思ったより風邪、ひどいみたいだな。」といって寝室を出て行った。・・・なんだというんだ。 一応仮にもお医者さんである賢木先生の看病は、先生という肩書きがあるだけであたしの気持ちは軽くなった。(別に肩書きだけ、なんて言ってる訳ではない)(何度もお世話になってるからあたしだってわかるけど、相当腕はたつと思う) なんてぼーっとする頭でふわふわと考えていたら寝室のドアが開く音がして、先生が入ってきた。 せんせいっておりょうりできたんですね。と言うとサイドテーブルにおかゆを置いた先生があほか、と悪態をついて軽くデコピンをした。あいたたた。 おでこをさすっているとさすっていた手を掴まれた。(あわわわせんせいちかいです)あたしの腕を掴んでるほうの腕とは反対の手を先生はあたしのおでこに添えた。 「熱いな。最近ずっと忙しかったらしいな。」それで風邪ひいたんだろ?先生には何もかもお見通しだった。そんなにあたしって単純かな、とちょっとムスっとするとおでこに添えられていた手がほっぺをつねる。(子ども扱いしやがって!) せんせい、はやくうではなしてください。とあからさまにむすりとしたまま言うと腕を掴んでいる力は強くなって、思わずどきっとしてしまった。そうだった。今この部屋には先生とあたししか居ないんじゃないか。(子ども扱いされてるから何もないと思うけど)と思う反面何か起きて欲しいと思っている自分も居る。本人は知らないと思うけれども。(先生のこと、)(すきだもん)先生からすればあたしなんて許容範囲外だと思うけど。 掴まれた腕をぐい、と引っ張られてまるで先生にあたしが抱きついたような体勢になると、先生はにやりと笑って「続きは風邪治してからな。」続けておかゆ、そろそろ猫舌なお前でも食えろだろと先生は抱きついたあたしをベッドに座りなおしてくれた。 え、そ、そそれはどういうことですか? おかゆを食べ終わったらその真意を聞いてもいいですか?と言うとまた先生はにやりと笑った。 ああ!振り回されてる気がする!(気がするだったらいいんだけどな) (絶対可憐チルドレン/賢木修二) /0121/ そういえばさあ、とあたしは京介の部屋のテレビのチャンネルを変えながら後ろに居る京介に話を振ると、後ろに居た京介はなんだい?と(別にこっちに来なくていいのに)わざわざあたしの隣に座った。京介が隣に座ったときに京介の肩に乗っていた桃太郎がひょいとあたしの膝に乗ってきたのでとりあえず毛並みがいいので撫でてみる。(それを見て桃太郎に威嚇してる京介が可愛いなんて)(本人には言いませんが) 「それでなんだい?」あ、そうだ。「いや、あのね。」 「この間バベルのひと助けに行った時にさ。帰ってきた時どうしてあんなにボロボロだったの?」 真木ちゃんに聞いたらさあ、京介に聞けっていうんだよね。というと京介はいつもは見れないような動揺っぷりで、やっぱり何かあると悟った。 京介の動揺を見ていつもの桃太郎なら京介を馬鹿にするはずなのに何も言わない。ああ、やっぱり何かあるよね? エット、ホラ、オマエニモ言エナイコトグライ京介ダッテアルヨナ?逃げようとする桃太郎の首を掴んで白状しろ、と言うと桃太郎は、 「キョ、京介ガ鞭デウタレタンダヨ!」 コレデイイダロウと桃太郎は力を込め損ねた腕からするりと抜けて京介の肩に乗った。えと、それはつまり・・・? 「え、京介が鞭?」「え、だからあんなボロボロだったの?」「持ってるイメージのが強いけど・・・受ける方も似合うんじゃない?」 あまりのショック(もちろんいい意味でありつつ自分が生で見れなかったことにも)で言葉がおいついていない状態になっていると京介はため息をついて、確実に僕のこと馬鹿にしてくるのをわかってたから言いたくなかったんだよ。と前髪をかきあげた。ちらっと見えた古傷は、今でも痛々しい(そして京介は古傷に触られるのを激しく嫌がる)本人いわくむずがゆい何かがあるらしい。 ふ、と京介の目とあたしの目が合って思わず(鞭を受けた京介の悲痛の顔を想像してしまい)どきっとしてしまった。 「いや、馬鹿にするというより・・・」と続きを言おうとすると京介はあたしの腕を引っ張って強引に唇を重ねて、あたしの口を塞いだ これ以上言うと今晩は寝れないぜ?と耳元で囁いた京介を見て、たまにはあたしも京介と立場逆転してみたいなんて思ってしまった。 それをサイコメトリーで読まれているとも知らずに。(気づいてたらそんな事考えないよ!多分!) (絶対可憐チルドレン/兵部京介) /0124/ 砕軌さん!あたしがうしろから名前を呼ぶと砕軌さんは一度立ち止まってあたしに気づいた。 はわわ!相変わらず素敵だ!にこりと微笑んだ砕軌さんを見て一瞬あたしの思考回路は停止した。本日も正常です。 砕軌さんは世界の終末の関係者さんで、あたしは未来が見える俗に言う先見という奴。砕軌さんが守ろうとしているお姫様は国の国会議事堂の地下にいらっしゃる夢で未来を見るひと。(砕軌さんは近々そのお姫様を守って)(いなくなる)この世界から。 これはわかっていてもとめられない運命。あたしは世界の終末の関係者だけども、決して天の龍にも地の龍にも関わってはいけない。 それがあたしが生まれた一族の掟。 だからあたしが終末の関係者だと言うことは砕軌さんは知らない。そしてあたしは国会議事堂の下にいるお姫様には夢でしか逢った事はない。歴史を第三者として見つめなければならない一族だから。 本当はもしかしたら砕軌さんにも関わっちゃいけないのかもしれない。 だけど、あたしは一人の男性として砕軌さんが好きになってしまった。世界の終末の関係者とは知らずに。 砕軌さんは、真面目で、嘘をつくのが苦手な人だ。だからあたしがわかっていて学校の帰りに見かけたときに何処に行くか聞くと目が泳ぐ。 何回繰り返しても同じ反応がかえってくる。砕軌さんはあたしを巻き込まないために嘘をついてくれているんだとわかっている。 (アナタのその努力とは裏腹にあたしは世界の終末の関係者なんです)そんな真面目なところが好きです。 最近頻繁に見るようになった砕軌さんの最後。頻繁に見えてしまうということは、もう近い。 それを意識すればするほど砕軌さんに逢いたくなる。だからつい校門を出たあたりで声をかけてしまう。 振り向いた砕軌さんに今日もお逢いしましたね、と声をかける。どきどきどきどきどき。(これは何にどきどきしているのだろう)(こい?それとも) もう少ししたら貴方に逢えなくなるからですか? 残り少ないのならば貴方ともっと一緒に居たい。砕軌さん。大好きです。(口にしてしまえば楽なのに)(本当のことを言えば何かが変わるかもしれないのに)変えられないのは一族の掟を言い訳している臆病なあたしのせい。 世界の終末まであと―――・・・ せかいがおわるときにつたえたい。つたえたいあいてはもういないのだろうけど。 (X-エックス-/砕軌玳透) /0126/ 最近赴任してきた新しい数学の先生。すっごくめがねの似合う童顔の先生。スーツ着てなくて制服だったら同い年ぐらいに見える・・・と思う。 すっごい優しい。しかも数学の苦手なあたしでもわかりやすい授業で、此処最近は数学も成績が並になった(それまでがひどいだけですか、そうですか。)でも並になっただけでも先生はほめてくれた。 あ、あとその数学の先生はすごくモテてる。 休み時間とか職員室に行けばなんだか人だかり。あれ、あたし提出物だしに来たんだよね?って思ってしまうぐらい人(というか女子)がいっぱい。 そしてあたしもその一人。最初はあたしのクラスの臨時担任みたいなので来た先生・・・セイジュ先生にひとめ惚れ。 それで数学の成績が半端なく悪いあたしは補習に呼ばれてそのときに「次のテストでがんばったらご褒美あげるよ」といわれてどうしようもなく心臓がうるさくなったのを今でも忘れられない。 ご褒美としてもらったのは棒つきの飴ちゃんで。セイジュ先生が内緒だよ、って人差し指を口元に置いた。その仕草は夕暮れの逆光で目をしかめなければ見えなかったけど、あまりにもその姿が夕暮れに似合っていて、どきどきした。 どきどきしていたのはあたしだけで、先生には奥さんが居たらしいけれども。あとひとつきと少しすればあたしたちは卒業する。そうなったらあたしのこの今感じている気持ちもなかったことになるだろうか。 青春だね、とか思春期だったね、とかそんな言葉でひとくくりにされてしまうのだろうか。 教室を出て靴を履き替えに行く途中に見かけたセイジュ先生の背中を見てあの時の夕暮れのお日様を思い出したかのようにあたしは眉間にシワがよった。 (Under The Moon/セイジュ) |