DIARY//SS /0603/ 「・・・大丈夫?セイジュ。」 お姫様とぶつかったセイジュをたまたま見かけたあたしは座り込んだままの彼に話しかけた。 セイジュの横に落ちている箱にはきっとお姫様に渡すつもりだったリボンが入ってたんだろうな。 うつむいたままの彼を見て手を差し出してもきっとその手をとってはくれない。 「・・・なんで、僕じゃないの?」 ポツリとつぶやいたその言葉を聞いて、誰にでも愛されているお姫様がうらやましかった。 そしてその言葉はあたしがセイジュにそのままかけたい言葉でもあった。 (under the moon/セイジュ) /0608/ 「盗み聞きなんて趣味悪いんじゃねえの?」 「・・・」 「・・・おい、なんとかいえよ。」 「・・・」 ドアの向こうに消えた珠美さんがうらやましい。ずるいよ。 あたしとあからさまに態度違うし、葵の色目なんてもう見たくない。 (ただの醜い嫉妬でございます。) 知らず知らずに涙ぐんでいたあたしの目は視界が悪くなってきた。 あたしを見下ろしているであろう葵を見ればきっとこぼれてしまう涙は、まだ頬を通らない。 奥歯をかみ締めて、彼には涙を見せたくない。 (でも彼のつらい顔もみたくないのです。) 珠美さんが本当に葵を幸せにしてくれるなら、よろこんで。 「葵。」 「どうした?」 (突然下向いているあたしの顔を覗き見るなんて反則だとお思いになりませんか。) 驚きのあまりに涙がこぼれた。 「・・・すき。」 泣いたってわめいたって何度同じことを言っても葵はただ苦笑いしてあたしの頭を撫でるだけだ。 (葵を一番苦しめているのはあたしかあなたかどっち。) (花宵ロマネスク/宝生葵) /0614/ 「あたしを置いて行ったからだよ?」 「・・・そうかもね。」 ガチャリ。拳銃を彼の額に向けたあたしは、苦しかった。 彼はあたしを置いて違う男のところに逃げた。 あの時のあたしの気持ち、 「わかる?」 「え?」 「・・・だいすきだったのに、」 「敏弥がいなくなったとき。」 「あたしがどんな気持ちだったか、」 「わかる?」 大きな目を見開いた彼はあたしの名前を呼んでそれからまた何も言わなくなった。 静かなVIPルームと、騒がしくなった違法バーのホール。 「・・・アンタの思い人の元仲間?かな。来ちゃった。」 決心が揺らぐ前に殺して逃げるつもりだったのに。 きっと敏弥の思い人が敏弥の目の前で消えるとき。 敏弥の顔を見ることなんてあたしには出来ないと思ったから。 「・・・やっぱりあたしには無理だよ。」 きみをころすことも、きみをあたしのなかからころすことも。 (DIRENGREY/敏弥) /0702/ 「・・・ねえどう思う?」 「どう思うって何が。」 どんぐりと食べながらあたしの話を聞く。 かんわいいリスなこったい。 「だーかーら。ひょーぶくんのこと!」 「ああ、変態だから放って置けばいいんじゃない?」 そういって食べ終わったらそれ以降なにも言わずにまた次のどんぐりを食べてた。 むー。 変態って。そりゃ確かにあんな小さい子をクイーンとか言っちゃうし しかも実はジジイだし しかも以外と両刀そうだし ・・・それでも、すき、かな。 急に兵部くんが目の前にテレポートしてきた。 びっくりしすぎてしりもちをついた。 紳士な彼はあたしに手を差し伸べてくれて、ドジだね、と痛い一言をくれた。 余計なお世話です。 なんせ、エスパーじゃないから、あたしにはあなたの心なんてよめないし、 よんだらきっと、あたしがかなしくなるだけだよ。 (手を掴めば気持ちが読み取れることは彼女は知らない) (本当の気持ちを知っていてもなおまだ一緒に居てる意味を彼女は知らないしこれからも知らなくていい) (本当は両思いなんだよ知ってた?) (絶対可憐チルドレン/兵部京介) /0702/ 階段から落ちて、いや正確には落とされて、すーちゃんの声が聞こえて、意識失って。 そこからどうなったんだっけ? 起きたら保健室のベッドのうえ。 すーちゃんと、桐原先生と、きーくんと、ともゑちゃんと、綾芽と・・・だれ? 「大丈夫か?」ああ、すーちゃんだ。 「頭打ってない?他に痛い所とか・・・ない?」相変わらず優しいなあ、桐原先生。 「落とされたそうですね、それも葵さんに思いを寄せている方がご丁寧に。」・・・あお、い?・・・きーくん、どういうこと? 「もードジだなあ、そんな卑怯しかできないやつ僕がこらしめてあげるよ」ちょっとやりすぎにならないかな・・・ともゑちゃん加減知らないから。 「おい、ボーッとしてるけど、大丈夫か?」・・・ ・・・ ・・・ 「・・・あの・・・どなたですか?」 ピアスのたくさんあいている、眼鏡をかけた、背の高い人。 それが誰だか、わからないのだけど。 あたしが発言したあとのみんなの表情が、凍りついた。 どうやらあたしは、記憶を失ったらしい。 (花宵ロマネスク/宝生葵) /0713/ 張り詰めた空気の中、すーちゃんがあたしに「本当に覚えてないのか?」と聞いてきた。 あたしは首を縦に振って答えた。 ひとりだけ、おもいだせないひと。 多分階段から落ちるときに、誰かのことを考えてた。 ・・・誰のことだか、わからないけれど。 ピアスをあけている眼鏡の人はすくっと立ち上がってあたしの頭をくしゃくしゃっと撫でて保健室を出て行った。 頭を撫でてくれていた時の表情が、なんとも苦しそうに笑っていた。 むねがずきずきするのはなんでだろう。 (花宵ロマネスク/宝生葵) |