扉の開く音がして振り返ると出前から帰って来た明彦が暖簾をくぐってお店にはいってくる。「あ、おかえりー。」配達お疲れ様、とあたしが言うと明彦は上着を脱ぎながら「さっき例の3Bの問題児に逢った。」と言った。
「金八せんせいの最後の担任だっけ?」「ん。とりあえず健に電話して追ってもらったし大丈夫だろ。」上着を壁のフックにかけて調理台に入った明彦はまた別に頼まれた出前のおすしを握り始めた。

明彦とあたしは同じ中学の同級生だったのだけれども、元々3-C所属のあたしが3年B組になったきっかけは臨時担任で坂本先生が3-Bの担任になったために幸作くんが3-Cに移動したことが理由だった。
人数の都合で幸作くんの代わりに3-Bに移動したけれども、3-Bに入ってからの学生生活はあっという間だったけど一番心に残っているクラスだとはっきり今でも言える。そしてこの移動がなかったらきっとあたしは明彦とかかわる事なんてなかっただろう。
今でこそおすし屋さんである明彦の家の人手が足りないときに手伝いに行ったりしているけれども、最初の頃は関わりたくないグループNo.1に所属しているいわゆる不良だった彼とは何の縁なのか隣の席にうっかりとなってしまい(一番後ろの席だったド近眼のあたしが黒板の文字が見えないという典型的な理由で邦平の席と代わってもらったのがきっかけである)授業中寝てるかボーッとしてるかのどっちかの明彦と少しずつ会話をするようになった。
だからって今の関係に直結したわけではなく、当時は明彦は友子とひっつきそう?いやむしろ付き合っていたはずだったのだが、気づけばこんな風に一緒に居るのが当たり前になっていた。きっかけが何かあったとかがまったくないのがあたしたちらしいのかもしれないけど。
ちなみにあたしは中学3年生の時、邦平が可愛くて仕方なかった。ちはると同じぐらい可愛い可愛いって言ってた気がする。(別に恋愛感情があったわけではなく女の子と同じ可愛い部類の扱いをしていた。)

「今更だけど3-Bって可愛い子いっぱい居たよね。」お座敷のテーブルを拭きながら言うあたしに明彦もおすしを握りながら「お前ちはるの事大好きだったよな。」と言う。「ちはる超可愛いもん。今でも可愛いもん。でもちはるだけじゃないもん。アスミもバーバラもかなえも蘭子もみんなみんな可愛い。友子はカッコいいだったけど。」「さ、クラス変わってすぐは友子やちはるにべったりだったのに気づいたら女子に可愛い可愛いって言う変態キャラにされてたよな。」「え、何変態キャラって。あたし邦平やデラにも散々可愛いっていいまくってたんだけど。」あとこーた。あ、でもデラは母性本能くすぐられる感じ?
変態扱いされていた事を自分からふった話題で十年以上経って今更知ることになるとは思わず、明彦の方を向いて手を止めていると明彦も手を止めてこっちを向いていた。けれど目があった瞬間明彦はそっぽを向いてしまった。
「・・・あんときから思ってたけど、俺以外ばっか見てんじゃねーよ。」
明彦のおすしを握る手は目線はそっぽを向いたまま動き始め、あたしは明彦の言葉にあ然として明彦の方を向いたまま持っていた布巾を床に落としてしまった。


在りし日の残像 を振り返って



(・・・あきひこ、)(何?)


あたし女の子とか可愛いものが好きだけど、明彦はそれ以上に好きだから心配しないでよ。