学校の帰りに高校の時から持ち上がった友達数人と繁華街をうろうろとウィンドウショッピングをしていたら大画面に映っている見知った顔に思わずモニターを二度見してから立ち止まってしまった。急に立ち止まったあたしを見て友達も振り返ってモニターを見て驚いていた。
「ねえ、あれ小田切くんだよね?」と友達の一人が言うと横に居た友達が「あのおんなのひとも、えっとなんだっけ3年D組の担任だった・・・」とめっぽう喧嘩が強い女性を指差していた。モニターに夢中になっていたあたしはりゅう、と心の中だけで言うつもりが声に出ていた。あたしと彼、小田切竜は高校の時からの知り合いで、モニターの向こうでもガツと男性を殴った女性がきっかけで出逢った通っていた高校が隣の男子校生だった。ヤンクミせんせは竜は勿論の事あたしにとっても恩師と呼べる凄く筋の通った近年稀に見るような熱血っぷりを発揮してくれた可愛いのに意外と熱い先生で、竜が教師になりたいと進学したのはこの先生の指導があってこそだった。(確かに今も模索中な部分は沢山あるけれどもヤンクミせんせが居たからきっと学部も教育だったんだよアイツ)そんな竜が恩師ヤンクミせんせを追いかけてわざわざ母校黒銀学院に行かず赤銅学院に教育実習生として赴任したのはついこの間。元々連絡方法を逢うと言うコミュニケーション以外でする事が滅多になかっただけにメールなんて全然していないしどんな実習生活を送ってたのかは未知数だったけれども、突然のビルに埋め込まれた大画面越しの生放送で彼の近況を知るなんて思っても居なかった。
久しぶりに見る竜のひとを殴っている場面を見て硬直して周りの声なんて一切聞こえないほどになったあたしはただ画面をまっすぐ見つめているしか出来なかった。しばらくして画面越しに一件落着と言った雰囲気が流れ始めた頃、急に我に帰ると友達みんながあたしを見つめていた。ごめん、と言うと直ぐにお気に入りの赤いショルダーバッグからついこの間買い換えたばかりの携帯電話を取り出すと着信履歴から彼の番号を探し始めた。滅多に連絡なんて取らないから(これでも一応付き合ってるんだと思うのに)(タケとか隼人しか着信履歴がない)必死にボタンを連打していると履歴の終わり前ギリギリにその名前は見つかった。慌てて発信すると2コール程で竜は電話に出てくれた。大画面に映った竜を見ながら電話するなんて不思議な感じで、最近竜が実習に入ったので逢えてなかった分画面越しの竜と、携帯電話独特のノイズがかった竜の声を聞いて涙腺が急に弱くなった。モニターを見上げて竜の顔を見ながら発信を表していた無機質な音が途切れてざわついた音が漏れてきた。「もしもし」久しぶりに聞く竜の声とモニター越しに見える竜が携帯を取り出したのを見てあたしの涙腺はもう化粧が落ちるなんて忘れて警鐘を鳴らすまでもなく決壊した。
りゅ、う。ずずっと鼻をすすりながら聞こえるか聞こえないかギリギリで、でも今の自分には精一杯の声を絞り出し必死に声を出した。「竜・・・よかった、無事で。」「何が」「・・・全部全国ネットで放送されてるよ、馬鹿。」本当に、無事でよかった。何年も何年も竜と話していないかのような懐かしさに涙は止まるどころか流れる一方。モニターの向こうで竜がヤンクミせんせに話しかけられていて、あたしの携帯からも何を話してるかはわからないけれどもヤンクミせんせの声が聞こえた。「小田切、誰と話してるんだ?」「・・・。」「って、さんか?」「ん。」お前らまだ付き合ってたのか!このラブラブめが!画面越しに聞こえるヤンクミせんせの言葉に思わず一瞬息を呑むとあたしも一緒に居た友達に冷やかされる。「りゅう、ヤンクミせんせに代わってよ。」そう言うと竜の顔は一瞬しかめっ面になったけれどもあたしの願い通りヤンクミせんせに自分の携帯を渡した。「さんか?」「ヤンクミせんせ!お久しぶりです・・・!」「せんせは相変わらずみたいですね」中継見て変わらないせんせに感動しちゃいましたよ。少しおさまっていた涙がまたこぼれ始める。あたしの嗚咽がこぼれて居るのが生放送のモニター越しにも聞こえている。ヤンクミせんせがわたわたとしていると横から携帯を取ると「来週には帰れると思うから。」「それまで待ってろよ。」「・・・ヤンクミせんせにも近々逢いたい。」「ああ」りゅう。「無事でよかった。」しばらくして電話を切りビルに埋められた大きな画面を見ると既に生放送はコマーシャルへと変わっていてふと現実に戻った気がした。周りを見れば友達がニヤニヤとしながらあたしを小突き始める。久しぶりに来週には逢えるんだ、と約束をしてもらえたみたいで嬉しいくてあたしは今は日にちを数えていく事だけが楽しみだった。


そして逢瀬は鳴り響く

(ねえ、なんかさっきから周りの視線?感じるんだけど・・・)(そりゃあんな全国ネットで会話してたからでしょ)(見せつけるからだっての)


20100223/