お坊ちゃま・・・じゃなくてご主人様がお見合いをなさってしばらくお見合い相手の中原様のご自宅に泊めて頂く事になりました。最初はいきなり破談するかと思ったけれどもまさかご主人様の趣味がこんなところで役に立つなんてあたし、いや私も思いませんでした。
ご主人様である久留米様はすんごいお金持ちで(昔は)イケメンだったらしい。もっとも、あた・・・じゃなくて私はついこの間久留米家に使用人として雇われたばっかりなのでなんにも知らないけど。(今はむしろあのヘタレ加減がうざいおじさまなんじゃ・・・)(絶対口が裂けても本人には言えないけど)何より今までお見合いをしても必ず破談するのには理由があった。それはご主人様の趣味。拷問器具とかSMとかなんか危ない趣味を持ってるのが仇になっていつも破談になってる。別にあの趣味さえなければご主人様も草食男子時代である今なら結婚できそうなのになあ・・・と、いつも思う。(ちなみに旦那様やお坊ちゃまって呼べばいいところをじゃなくてご主人様って呼ばせてるのもご主人様の趣味)ドMの癖に。
私の家は代々久留米のお家に仕えている一族で、パパもママも今は隠居してるけどおじいちゃんもみんな仕えてきた。学業はちゃんとしっかり勉強しなさい、とまあ硬い頭の家なのでしっかり昼間は学生をしております。バイトを探す事を思えば久留米で仕事してる方が探すもの手間が省けるからいいかな、ぐらいのノリで私は始めたんだけれども。

そんなこんなで中原様のご自宅にご主人様と数人の使用人その他もろもろでお邪魔させてもらう事になり、ご自宅について直ぐも中原様は拷問器具やら何やらを見てとても目が輝いている。あんなに美人なのに人って外見だけじゃわからない事いっぱいあるんだな、と思った。(うちのご主人様も外見ヘタレなのにあんな趣味持ってるから似たようなもんか)少し変わった環境にいらっしゃる中原様はおば様にあたる美音様と息子のタケル様が管理人を務めて居られるお屋敷にお住まいで、中原様以外にも数人の下宿人がいらっしゃる。
ご主人様の部屋に荷物を置いてリビングに戻ると先ほど慌てて久留米のお家から取り寄せた拷問器具を見ながら中原様とご主人様は楽しそうに談話しておられた。正直つりあわないんじゃないか、とか色々思ってたけどこうやって見ればお似合いなのかもしれない。でもなあ・・・拷問器具はまだしもあのひとSM好きなのがなあ・・・バレたら中原様でも破談する気がする。

と、思っていたのに。何故かスムーズに結婚式まで来てしまった。いや、本当はうまくは進んでないんだけれども、ご主人様がどうもSMの趣味がバレてしまったらしく中原様との結婚を止めようとした高野さんを閉じ込めてしまったのでそれ以外のひとが文句を言わなかったのでそのまま結婚式まで来てしまったと言う感じなんだけれども。あれはやりすきだろ、って高野さんを閉じ込めたお兄さんの一人も言っていた。そして私は今必死に高野さんを助けようとしている。高野さんを閉じ込めるように命令されたお兄さん達には必死に止められているけれど、これはこんな結婚式は違うと思う。「・・・騙してるじゃない。」「騙して、偽って、そんなので幸せなんかになれないよ・・・」私の腕を掴んで阻止するお兄さんに目を向けると一瞬力が緩んだ。その隙を見て高野さんに加勢した。アイツを裏切っていいのか、と聞いてきたけどただ無言で頷いた。本当のご主人様を見てもまだ中原様がご主人様の事好きならばこんな事しない。けれどもこのままじゃ半分、いや大半を隠したままでサプライズとは名ばかりの強制結婚になる。それは嫌。それは違うと思う。あんなおっさんだけどそれなりにいいところもあるし、中原様だって変わった趣味を持ってるけれども誰かのために必死になれる素敵なひとだから、お互いもっといろんなところを見て思いあって欲しかった。(それにこんなに必死に中原様を助けようとしているのに、)(黙ってるのもつらい)私もご主人様と同じ、高野さん達を騙す事になるから。見知った顔ばかりのスーツのお兄さんと向かい合って睨み合う。どうか結婚式が終わるまでに間に合いますように。

喧嘩なんてほとんどした事なかったけれども久留米家に仕える為に仕込まれた柔道がこんなところで役に立つとは思っても居なかった。ぶっちゃけ相当足を引っ張ってしまっただろうけど結果オーライだよね、と思いながらバージンロードを逆行して行く高野さんと中原様を見送った。お互いに背中を任せられる相手なんて、理想だよなあ。高野さんはお屋敷に居た時からずっと他の御三人から冷やかされていたのを拒絶していたけれども、中原様とすごくお似合いだと思う。ふと瞼を閉じてさっきまでこの場にいた花嫁と花嫁泥棒を思い出す。高野さんが失態を起こしてしまった私をご主人様から助けてくれたあの時。短い間だけど、好きになるには十分だった。けれども、彼の小指に繋がる赤い糸は違うひとと繋がっているなんてわかっていた。

(どうかお幸せに。)(さらば短すぎる恋よ)